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人間の尊厳を守る社会へ

2022.08.25

党勉強会
慶応義塾大学経済学部 井手英策教授の講演から(要旨)

教育、医療、介護など人間が生きていく上で不可欠なサービスを無償化する「ベーシック・サービス」論などについて、公明党の青年委員会(委員長=矢倉克夫参院議員)と地方議会局(局長=輿水恵一衆院議員)は20日、党本部と都道府県本部の議員らをオンラインで結んで勉強会を開催した。これには、講師として同サービスの提唱者である慶応義塾大学経済学部の井手英策教授が招かれた。その講演要旨を紹介する。

ベーシック・サービス
教育・医療・介護など無償化めざす
弱者だけでなく全ての人に

慶応義塾大学経済学部 井手英策 教授

私が提唱するベーシック・サービスには、三つのポイントがある。第一に給付対象はあくまでサービスであるということだ。食料や住まいなどの財を全国民に直接給付する社会主義とは違う。

第二に人口減少と経済の長期低迷で豊富な税収が当てにできない中、給付するサービスについて人間が生きていく上で不可欠な基礎的なものに絞り込む。そして所得制限は設けず、全ての人を対象にしているのが三つ目だ。

国際調査によると、私たちは弱い立場に置かれた人に対し異様なほど無関心なことが明らかだ。給付や課税による再分配で所得格差を小さくする財政の力も、日本は経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最低レベルとなっている。

ただし、格差の有無が問題の本質ではない。所得にかかわらず、全ての人がサービスを利用できる社会をつくり、皆が平等に競争に加われれば、その結果、生じる格差は受け入れられるものに近づいていく。

人を助けることは大切だが、人から助けられることによって、その人の心の中に屈辱が刻み込まれることに留意しなければならない。世の中にはたくさんの落とし穴があって、運悪く落ちた人に「かわいそう」と言って救いの手を差し伸べる社会が正しいとは思わない。穴を一つ一つ埋め、誰も落ちない社会をつくる――それが人間の知恵の使い方ではないか。

だから「弱者を助ける」ではなく「弱者を生まない」との発想が重要だと主張してきた。

ベーシック・サービスでは、中間層を含む全ての人の生活を保障する。具体的には大学、医療、介護、障がい者福祉にかかる自己負担分のほか、給食費・学用品費なども無償化することをめざす。

やむを得ない事情で働けない人には「品位ある命の保障」を行う。全体の2割に相当する低所得層に月額2万円を支給する「住宅手当」を創設し、生活保護の生活扶助と雇用保険の失業給付を拡充したい。

ベーシック・サービスと品位ある命の保障を車の両輪として、最小コストで最大幸福をめざす。財源はさまざまな税の組み合わせを考えればいい。仮に消費税で賄うなら6%分に相当するが、一挙にやるとハードルは相当高い。そこで、大学授業料無償化と介護自己負担無償化を組み合わせるなど、無償化していく政策をパッケージとして示し、段階的に進めていってはどうか。

大事なことは、取った税金をどのように使い、どのような社会をつくっていくのかということだ。皆で負担を分かち合い、誰もが堂々とサービスを受け取る社会にしたい。

ソーシャルワーク
資源の総動員で困り事を解決

ベーシック・サービスを実現しても残る課題がある。例えば、既に無償化されている小学校に不登校の子どもたちがいる。地域では、困難を抱え、孤立している人もいる。

こうした課題に対処するのが「ソーシャルワーク」だ。国際的には「暮らしの課題に取り組み、幸福や健康といったウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を高めるべく、人々やさまざまな構造に働き掛ける」と定義される。つまり、社会福祉士や精神保健福祉士といった有資格者だけが担うものでもなければ、サービス提供で済むものでもない。

ソーシャルワークの本質は、困難を抱える当事者と家族の置かれている環境ごと変えていくことだ。そのために地域の中で一人一人が周りの人をケアし(気に掛け)、困り事があれば、解決のためにさまざまな資源を動員する。これらの仕組みづくりの財源は、ベーシック・サービスの実現によって、要らなくなる生活保護費の一部を充てる構想だ。

ベーシック・サービスと品位ある命の保障で国レベルの連帯をつくり、ソーシャルワークで地域レベルの連帯をつくる。痛みを先送りせず、次世代と分かち合うことで世代間の連帯を築く。こうした取り組みを通じ、全ての人が人間らしく生きていける“人間性の保障”を徹底する。

いで・えいさく

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は財政社会学。『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命』など著書多数。50歳。

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