今野晴貴 NPO法人「POSSE」代表理事に聞く
住居不安が仕事選びの「かせ」に
――若者の住居環境を巡る課題について、どのように分析しているか。
今野晴貴代表理事 私たちは若者の労働と貧困に関する相談を受け付けている。そこで感じるのは、住居の不安定さが仕事を選ぶときに「かせ」になっているということだ。自分が住む地域に仕事がなく、例えば上京しようと思っても、初期費用や高額な家賃負担がハードルとなる。住居付きの仕事もあるが、コロナ禍で仕事が少なくなると真っ先に解雇し、住居から追い出すような業者もいる。
東京都が2018年に公表した調査では、住居の喪失を理由にインターネットカフェを利用する人が、1日当たり約4000人いると推計された。不安定な雇用状況のほか、親の虐待から逃れるために実家を出ざるを得なかった人も多いと見ている。
――どんな対策が考えられるのか。
今野 まずは、収入の減少などで家賃を払えない人に自治体が支給する「住居確保給付金」の支給額や対象者、給付期間の拡充が挙げられる。これは先の参院選で公明党が訴えていた。その上で、さらに提案したいのが、生活保護から住宅扶助を分離することだ。医療扶助など、あらゆる保障がセットになっている生活保護から住居の保障のみを切り離し、制限を緩和してより広く保障を受けられるようになれば、多くの若者が救われるだろう。
――党青年委は、提言で住居の確保に困難を抱えている人への住宅手当の創設などを訴えている。
今野 まず、直接補助を出すという考えに立っていて、それは本当に必要なことだと思う。ただ、家賃相場のインフレを避けるために、住居の供給を適切に行うことも大切だ。民間の賃貸住宅を活用して、低所得者らが借りやすい住居の確保を自治体が支援する「住宅セーフティネット制度」の普及もさらに進めてほしい。
賃貸への支援 拡充が必要
――賃貸住宅に住み続ける若者が増えている。
今野 今の若い世代は将来不安もあり、ローンを組んで家を買うことが難しくなってきている。住宅ローン減税など、持ち家の入手を前提とした政策だけでなく、賃貸住宅への支援も視野に入れるべきではないか。また、リフォームなど既存の住宅の再活用も強化すべきだ。環境負荷の軽減や建築資材の高騰といった観点からも、もっとリフォームが有利になるような仕組みがあっていい。そうなれば、若い人が親から住居を継承しやすくなるだろう。
――その他に必要な施策は。
今野 「マルトリートメント」と呼ばれる、虐待に類するような行為が行われる親子関係は、一般的に思われているよりもかなり広範にある。若者の住居の自立が重要であるということが、この点からも啓発されてほしい。
――公明党への期待は。
今野 公明党は、ブラック企業対策を進める若者雇用促進法の制定や職業安定法の改正などに熱心に取り組んでくれた。若者の住居に関しても、与党の中で存在感を発揮して政策を前に進めてもらいたい。
党青年委が住宅手当の創設を提言
国の調査によると、持ち家世帯の全体的な比率は1983年から2018年まで60%程度で大きな変化はありません。しかし、30代では1983年に53.3%だったのが2018年には35.9%になるなど、大きく低下。家賃など住居費の負担軽減策のニーズが高まっています。
こうした現状を踏まえて党青年委は、今年6月に岸田文雄首相に申し入れた「VOICE ACTION(ボイス・アクション=VA)2022」を基にした政策提言で、住宅手当の創設を含む住まいのセーフティーネットの再構築を主張。UR賃貸住宅の募集に当たり、一定の年齢以下の人を優先する「若者枠」の設定などを通し、中間層を含めた若者向けの公的な住居提供サービスの拡充も訴えています。
こんの・はるき
1983年生まれ。若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」を設立し、代表理事を務める。『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)など著書多数。