秋山信将 一橋大学国際・公共政策大学院長に聞く
国際賢人会議の議論
兵器使用のリスク、どう低減
――初会合の概要を教えてください。
秋山信将院長 岸田首相が立ち上げに当たり「各国の現・元政治リーダーの関与」に言及した結果、インドネシア元外相のマルティ氏や軍備管理を担当していたゴッテメラー元米国務次官ら高いレベルで、しかも政策に明るい人が委員として参加したほか、オバマ元米大統領や国連のグテレス事務総長もビデオメッセージを寄せた。
議論の構図に関しては、核兵器は安全保障の不可欠な要素という考え方と、核廃絶を直ちに実現すべきだという考え方の違いは解消されていない。ロシアのウクライナ侵略によって核兵器使用の懸念が高まり、むしろ分断は厳しさを増している。
――具体的な論点は。
秋山 「核兵器不拡散条約(NPT)の再検討プロセスの実効性をどう確保すべきか」や、「核兵器使用のリスクが高まっているとされる中で、その低減のためにどんな措置が必要なのか」「国際安全保障の構造的な問題はどこにあるのか」といった議論が活発に交わされた。
また、委員同士が立場の違いを尊重し合うために、お互いをよく知ることも初会合の目的の一つであり、それを果たすことができた。
若い世代への期待
理想の実現へ革新的、具体的なアイデアを
――岸田首相が創設を表明した「ユース非核リーダー基金」の意義は。
秋山 世界各地の若者に対し、日本の被爆地を訪問し、被爆者の声を直接聞き、そして被爆の実相を直接知る貴重な機会を提供する良い試みだと思う。また、現在、各国の若手外交官を対象とした研修の「国連軍縮フェローシップ・プログラム」もあるが、広島・長崎を訪れる訪日プログラムを充実させ、より多くの外交官を受け入れてほしい。
――核廃絶を進める上で、若者の役割とは何か。
秋山 単に将来こうあるべきだという理想を語るだけではなく、その理想を実現するにはどんな取り組みが必要なのか、今の現実にどのように折り合いをつけていくのかということについて、イノベーティブ(革新的)で具体的なアイデアを出してほしい。
安全保障は最悪のリスクに備えながら、将来を形づくることでもある。当面、直面するリスクには国家安全保障戦略の改定などで対処しつつ、将来を形づくるための対話や、脅威を削減するための取り組みを進める。二つの取り組みの強度を同時に高めることが大切だ。
――新たなアイデアを考えるために必要なことは。
秋山 われわれが直面している問題について、まず知ることが大事だ。病気を治そうと思えば、病気を知ることから始まる。その上で外科治療もあれば投薬もする。さらに病気にならないための予防措置も取るだろう。安全保障も同じだ。国と国との関係が悪化している要因は何か。軍事的な対立がなぜ起こるのか。政治的な対話はなぜできないのか。そうしたことを分析し、改善のために何ができるかを考えるのは、シニアの専門家だけの仕事ではなく、もっと若い人たちがやっていくべきことだ。
国際賢人会議
岸田文雄首相が外相当時の2017年に発足した「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」を発展させた日本政府主催の国際会議。第1回会合には13人の委員が対面参加し、核軍縮を進める上での課題を議論した。
あきやま・のぶまさ
1967年生まれ。一橋大学法学部卒、博士(法学)。広島平和研究所講師、日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員、外務省在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て現職。専門は国際政治、軍縮・核不拡散。