長野 中小企業で働く若者に好評
「生活費かさむ中、助かる!」
「奨学金返済の負担は仕方のないものだと諦めていた。一人暮らしで生活費がかさむ中、とても助かる」――。こう語るのは、長野県上田市の「東特巻線株式会社」で働く酒井美里さん(29)だ。
酒井さんは、都内の大学を卒業後、出身地である新潟県内の企業に就職。転職をきっかけに同市に移り住んだ。家賃などに加えて、生活の大きな負担となっていたのが年間15万円程度の奨学金の返還だった。
そうした中で、同社の本多豊社長から利用を促されたのが同市の奨学金返還支援制度。働き方改革などに取り組む中小企業で働く市内居住の若者を対象に、年間の返還額の2分の1(上限10万円)を最大5年間補助する。公明党市議団が訴え、実現したものだ。酒井さんは同制度で年間返還額の半分の補助が決まった。「こうした制度があると、地方でも若い人が暮らしやすい」と笑顔を見せる。
県の支援もリード
長野県では、公明党県本部の青年局が中心となり、若者の負担軽減や移住促進につながる奨学金返還支援の導入を訴える取り組みを展開。今年10月まで局長を務めてきた勝山秀夫長野市議を先頭に各自治体に働き掛けてきた。その結果もあり、返還支援の取り組みは県内自治体の半数を超える40市町村(今年6月時点)にまで広がっている。
青年局の取り組みに呼応して、県議会でも川上信彦県議が、県として返還支援を進めるよう主張。これを受け県は来年度から、奨学金返還支援制度を独自に設けている県内企業を対象に、支援額の一部を負担する事業を行う。支援制度のない市町村の居住者らをカバーするとともに、県内企業の魅力アップを図る狙いがある。
同県佐久市の「木下建工株式会社」では、同事業を機に社内の返還支援制度を始める予定だ。担当者は「一つの強みとなり、若い優秀な人材の確保につながるのでは」と期待を寄せる。
36都府県、615市区町村が実施
UIJターンの決め手に
企業の代理返還、500社に拡大
自治体の奨学金返還支援制度は2015年から負担額を特別交付税措置の対象とするなど、国による財政支援がスタート。今年6月時点で、実施自治体は36都府県615市区町村に上り、利用者も15~21年度の累計で3万人を超えている。
内閣府の担当者によると実施自治体への調査の中で、「(返還支援制度が)UIJターンの決め手となった」「(自治体内の)企業の採用活動を有利に進めることができた」という声が寄せられているという。
一方、企業による返還支援は昨年4月から、社員に代わって企業が奨学金を貸与する日本学生支援機構に直接返還できる「代理返還」制度が始まったことで導入企業が拡大。今年10月末時点で約500社が制度を設けている。
同制度では、返還支援分について、社員の給与に含まれないため、所得税や住民税、社会保険料が原則、増加しない。また、企業側も損金算入できるため法人税の軽減につながり、一定の要件を満たせば税額控除を受けることもできる。
党への青年の声が具体化
政府、導入促進の方針
公明党は党青年委員会(委員長=国重徹衆院議員)の政策懇談会などで寄せられた「奨学金の返済負担を軽くしてほしい」との声を基に、返還支援制度の拡充や国・地方のネットワークを生かした実施地域の拡大を進めてきた。
企業の返還支援制度についても、給与などに返済分を上乗せする方法しかなかったことから、所得税などが大きくなる恐れがあるという問題点を指摘し、企業が直接返還できる「代理返還」制度の創設を実現させた。
さらなる制度の充実に向け、今年4月には、党教育改革推進本部(本部長=浮島智子衆院議員)などが末松信介文部科学相(当時)への提言の中で奨学金返還支援制度の全国展開を要請。6月に決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に「自治体や企業による奨学金返還支援の促進」が明記された。
浮島本部長は「必要な予算を確保するとともに、地方議員と連携し、実施する自治体や企業を増やしたい」と語る。