なぜ公明党は「寡婦控除」にこだわったのか ~ 未婚のひとり親支援 ~

1、いびつな「寡婦(夫)控除」という税制
2020年度税制改正法が3月27日の参院本会議で自民、公明の与党両党などの賛成多数により、可決、成立しました。
この法律は、昨年12月に与党で決めた20年度の与党税制改正大綱の内容が反映されたもの。実は、この税制改正大綱で、
歴史的とも言える支援策
が盛り込まれたのをご存じでしょうか。
それは
“未婚のひとり親”に対する
「寡婦(夫)控除」の適用
(以下、「寡婦控除」)
です。
今からおよそ6年前、公明党は、13年末の与党税制改正を巡る協議で今後の「検討事項」として取り上げました。
以降、一貫して実現を主張。
17年末の与党税制協議会から本格的な議論が始まり、価値観が全く異なる自民党議員が多数いるなかで、公明党が粘りに粘ったのが、この「寡婦控除」です。
足かけ6年間にも及ぶ税制の議論で何があったのか、文章で残しておこうと思います。
母の手一つで子どもを育てる母子家庭(もちろん、父子家庭も)の皆さんに対しては、利用できる様々な支援があります。
児童扶養手当や、職業訓練の受講を支援する自立支援給付金などがありますが、そのうちの一つが「寡婦控除」です。
「寡婦控除」は、単に「税金が安くなる」というだけではなく、様々な支援が紐付いています。
代表的な支援としては、国の「所得税」と地方の「住民税」への適用です。
これにより、所得税も住民税も安くなる。所得税では最大35万円の所得控除、住民税では最大30万円が控除されます(所得税や住民税の課税対象となる所得額が減額される)。
この「寡婦控除」、もともとは戦争未亡人のための制度だったのですが、その後、“接ぎ木”をするように対象を拡大。そのため、少しいびつな制度となってしまいました。
そのいびつな点の一つが、同じ母子家庭であったとしても、結婚経験の有無で格差ができてしまったことです。
「離婚」や「死別」でシングルマザーとなった母子家庭には「寡婦控除」が適用されますが、様々な事情があって「未婚」で母子家庭となった場合は、「寡婦控除」が適用されてこなかったのです。
2、「寡婦控除」による支援
同じひとり親であるにもかかわらず、「離婚」や「死別」は寡婦控除の対象になるが、「未婚」は含まれない。
さらに、寡婦控除だけでなく、住民税が非課税となる基準も、「離婚」の場合は特別に低く設定
されていますが、「未婚」のひとり親にはこの設定さえない。
しかし、背景や経緯にかかわらず、いずれのひとり親も等しく“生活者”です。公明党として、こうした不公平を断じて見過ごすわけにはいきませんでした。
しかも、この控除に紐付く様々な支援は、単に税金が軽くなるだけではありません。
「寡婦控除」を受けているひとり親世帯は、公営住宅の家賃も安くなります。
また、先ほど触れたように「住民税非課税世帯」になれない場合、国民健康保険の全額免除はない、医療費の上限を設けている高額療養費制度も倍くらい高い、さらに2019年10月からの0~2歳の幼稚園・保育園の無償化も受けられない、といったように、税制上の差が、さまざまな支援の差、ひいては生活の差にもつながっていたのです。
いま、母子世帯の中で約1割は「未婚」の母子世帯で、年々増加しています。
平均収入を比較すると、「離婚」の母子世帯が就労収入205万円に対し、「未婚」の母子世帯は177万円。30万円程、「未婚」の平均収入の方が少ない状況です。
こうした実態から、本来は支援をより手厚くすべき「未婚」の母子世帯ですが、むしろ「未婚」だから支援が行き届かなかった訳です。
これを何とかしようと、公明党が最初に問題提起したのは、13年10月のこと。山口那津男代表が行った参院本会議の代表質問でした。
しかし、その年末に議論した与党税制改正大綱では検討事項として盛り込まれたものの、本格的な議論は4年後の17年末の与党税制協議会まで待つことになります。
3、自民党の伝統的価値観との対立、そして一歩ずつ前進
当初、自民党議員、とりわけ伝統的な家族観を重視する保守系議員からの反発は大きく、「こんな支援をしたら、未婚のひとり親を助長する」といった批判も聞かれました。
しかし、これは全く理不尽な批判と言わざるを得ません。
そもそも「未婚」の母子世帯は、必ずしも、望んで「未婚」となったわけではないからです。
実際、当事者の方にお話を伺うと、突然の婚約破棄もあれば、婚約していた男性が亡くなったケースもある。
妊娠を知ったと同時に男性が去っていった、あるいはDV(配偶者などからの暴力)に身の危険を感じてやむにやまれずその場から出て行った……。
こうした、筆舌に尽くしがたい事情を抱えながら、「未婚」のシングルマザーとして奮闘する人が少なくありません。
さらに、支援が受けられないまま「未婚」で産んだことに対し「子どもに申し訳ない」との思いを抱く方さえいらっしゃいます。
したがって、この問題は、「家族観」の違いという次元の話ではありません。
今そこにある課題、子どもの貧困をどうするかという、切実なテーマなのです。
こうした思いから、公明党は17年末の与党税制協議会で「寡婦控除」適用を求め、具体的に議論を展開。私自身も、「ライフスタイルの違いがあっても公平な税制にすべき」との観点から、公明党青年委員会の一議員として早期実現を訴えてきました。
しかし、17年末の与党税制改正の議論では、われわれの意見は不採用。自民党の保守系を説得できず、制度を変えることはできませんでした。
一方、国の18年度予算では、子どもの保育料などについて、未婚のひとり親への「寡婦控除」の“みなし適用”が実現しました。「寡婦控除」が適用された場合の課税額に基づいて保育料等が算定されるため、未婚のひとり親の負担が軽減されます。
それでも諦めず、18年末の与党税制改正の議論で、再び問題を提起。
そのころ、私自身は財務大臣政務官に就任し、税制の担当になりました。
しかし、「税こそ政治」と言われるように、税制は財務省で決めるものではありません。選挙を通じて国民の負託を受けた国会議員、なかんずく、国民から支持を受けて政権を担う与党が、年末の税制調査会で決めることになります。
私自身は、その議論を支える“裏方”として、実務の部分で「未婚」のひとり親への寡婦控除適用に関わることになりました。
この年の税制調査会でも、自公間で最後まで揉めました。
しかし、公明党が与党税制協議会で粘りに粘った結果、年の瀬も押し迫った師走の12月、ついに一つの“壁”を打ち破ることができました。
それは、自公がまとめる税制改正大綱で、「未婚」のシングルマザーが、「離婚」した母子家庭と同じ低いハードルで、住民税非課税世帯になることが決まったのです。
これにより、国民健康保険の保険料は免除され、高額療養費の上限も半分になります。
一方、本丸の「寡婦控除」の「未婚」のひとり親への適用は結論が得られませんでしたが、これも粘りに粘り、18年の年の瀬、仮に「寡婦控除」が適用されれば減税されていたであろう1万7500円分を、予算措置として翌年支給されることとなりました。
その上で、税制改正大綱には「さらなる税制上の対応について、20年度税制改正で検討し、結論を得る」と盛り込み、翌年の議論へ道を繋ぎました。
4、決着に向けての議論
そして、19年。
20年度の税制改正へ与党の議論が始まりました。
正直、自民党の保守層には「昨年でもう決着ついたやん!」という空気感があったように思います。しかし、公明党は懲りない。
再び「寡婦控除」を提起しました。すると、思いもかけず、自民党の女性議員からも、力強い応援の議論が展開されたようです。
こうしたこともあり、自民党の甘利税調会長は、議論の当初から「税制で対応する」との方針を示していました。
しかし、「寡婦控除」適用の実現には、それでもいつくかの“壁”がありました。
一つ目の課題は、“所得制限をどうするか”です。
まず、「離婚」した「女性」の場合、「寡婦控除」の適用には所得制限がありませんでした。しかし「男性」(父子家庭の父親)の場合には、この「寡“夫”控除」に所得500万円までと制限があります。
また、児童扶養手当についても、230万円という低い所得制限が設定されています。所得制限を設けるのか否か、設けるならどの数字にあわせるのかが課題でした。
二つ目は、“所得から控除される金額も、男女で不公平となっていた点”です。女性の場合は35万円でしたが、男性の場合は27万円となっていました。
三つ目は、“事実婚”をめぐる課題です。「離婚」したシングルマザーは、その後、良い男性とめぐり合って「事実婚」状態となった場合も、「寡婦控除」が適用されていました。
こうした「事実婚」世帯にまで控除の対象となっている現行制度をどう考えるのか。もし「事実婚」を支援の対象から除くのであれば、ではどうやって「事実婚」と判断するのか。こうした課題について、公明党内でもさまざまな意見が交わされました。
5、明るみになった新事実、そして決着へ・・・
議論の後半に、私たちがなんとしても「寡婦控除」適用を勝ち取らなければならないと、再び思いを強く固めたのは、「高等教育無償化」に潜む一つの事実でした。
公明党の強い主張で実現した、日本で初めての返済の必要のない「給付型奨学金」、そして授業料や入学金が減免される制度は、消費税を財源として、2020年4月から大幅に対象が拡充されています。
まさしく、ひとり親家庭にとっては、大きな助けとなる制度です。
ところが、これら奨学金や減免制度は、「寡婦控除」のあるなしで、もらえる金額に大きな差がある点が、今回の議論を通じて浮き彫りになったのです。
たとえば、母一人子一人で年収200万円の世帯でみると、「寡婦控除」が適用されていれば、奨学金や授業料減免で年額約160万円(私立大学・自宅外生の場合)までの支援が受けられます。
「寡婦控除」がなければ、年額約107万円までの支援となり、約54万円の差がついてしまう。
こうした不公平もなくすために、皆で知恵を絞りました。
結局、19年末の税制改正議論も、最後までこの「寡婦控除」で調整が続きました。
そして、公明党の全ての国会議員が参加する税調全体会議において、自民党との調整の結果が発表されました。
それは、当初の目標であった、「未婚」の女性も「離婚」の女性も、そして「男性」も、全ての差をなくし、同じ「寡婦控除」が受けられるという、満額回答の中味でした。
資料には、「未婚のひとり親に寡婦(夫)控除を適用する。この際、適用する条件は離婚、死別の場合とすべて同様とする。」と記されていました。
そして、条件として所得制限が設けられ、230万円という児童扶養手当の低い所得制限ではなく、現在、寡夫の所得制限となっている500万円まで控除が認められることとなり、男性も女性も同様となりました。
また、事実婚かどうかについては、住民票で事実婚を届け出ているかどうかで決めることにしました。
さらに、男女差があった所得控除も男性の27万円を、女性の35万円に合わせることが決まりました。
こうして、最初の問題提起から6年――。
ついに長い議論が決着。
「寡婦控除」をめぐり、結婚経験や性別といった、いわば生き方による差を税制から取り払うという抜本改革を実現することができました。
さきほど、「税こそ政治」という言葉に触れましたが、今回の「寡婦控除」一つとってみても、いかに税制というものがその国の政治思想を反映しているか、お分かりいただけたかと思います。
したがって、軽減税率導入にも象徴されるように、〝生活者目線に立った税制改革〟は、「大衆とともに」を立党精神とする公明党にとって、極めて重要な戦いなのです。
こうした思いから、公明党は、母子世帯の皆さん、なかでも平均年収が低く、生活が大変な「未婚」のシングルマザーの方々の小さな声を心のど真ん中に置き、粘り強く支援を訴え続け、実を結ばせることができました。
これからも、徹して「小さな声を聴く力」を発揮し、頑張っていきたいと思います。
—-
↑↑ ぜひ、ご覧ください!! ↑↑