Book Review

「○○○」がわかる3冊

第12回:「ロコモティブシンドローム」がわかる3冊

伊奈病院整形外科部長石橋英明

超高齢社会と「運動器の健康」の重要性

日本の高齢化は世界でも突出しており、高齢化率、つまり全人口に対する65歳以上の人口は現在26%となっている。超高齢社会といわれる高齢化率21%以上の国は、わが国以外では、世界でイタリアとスペインだけである。アジアでは、韓国は約12%、中国は約9%、東南アジア諸国はさらに低い。

高齢者の数も増えているが、長寿も進んでいる。各年齢の人が、それぞれあと何年くらい寿命が残っているかという平均余命データからは、今の中高年女性は平均で概ね90歳以上まで生きることになっている。男性も長生きすればするほど女性の長寿に近づく。90歳が当たり前の時代である。

そして、要介護者も同時に増えている。中でも、足腰の問題を原因とする要支援・要介護者が増えている。2013年の国民生活基礎調査では、要支援・要介護の原因は脳卒中(18.5%)、認知症(15.8%)、高齢による衰弱(15.4%)、転倒・骨折(11.8%)、関節疾患(10.9%)で、関節疾患と転倒・骨折、つまり運動器の問題によるものを合わせると脳卒中を超える。

運動器の問題は要介護だけではない。国民が感じる身体の症状は、ベスト5のうち3つが、男女ともに「腰痛」「肩こり」「手足の関節の痛み」である(2012年国民生活基礎調査)。現時点のつらさも、多くが運動器が原因といえる。

ロコモティブシンドロームは、「運動器の障害により移動機能が低下した状態」と定義され、「進行すると要支援・要介護のリスクが高くなる」と考えられている。要は、「年をとって足腰が弱くなり、放っておくと寝たきりになりますよ」ということである。メタボリックシンドロームがメタボと言われるように、ロコモティブシンドロームはロコモと呼ばれている。

ロコモは主に、加齢、運動習慣の欠如、活動性の低い生活習慣、不適切な栄養摂取が原因となる。加齢は仕方がないので、あとの3つに配慮していくことが重要である。

ロコモの理解と実践の動機づけに役立つ3冊を紹介する。

「新国民病ロコモティブシンドローム 長寿社会は警告する」中村耕三著

2007年、当時の日本整形外科学会の理事長であった中村耕三氏がロコモティブシンドロームの概念を提唱した。2009年にはロコモを早期に察知する方法「ロコモーションチェック(ロコチェック)」や、予防・改善のための基本的な運動「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」を発表し、中村氏自身もテレビなどのマスコミに多数出演し、普及を図った。本書はその翌年2010年に刊行され、著者の見識と思いが詰まった名著である。

冒頭の3章は、日本人に起きている運動器の変化、そして歩く・動くための人体の仕組みの解説で、直立歩行をするために支持する骨、動く部分の椎間板や関節、動かすための筋肉がそれぞれの役割を果たしていることが、図解とともに丁寧に説明されている。ヒトをヒトたらしめる歩行について、著者は日本の現状を「歴史上初めて出現した『集団的な規模で直立二足歩行が困難になっているという事態』」と評している。これに対する処方箋として、ロコモの背景と考え方、具体策がその重要性とともに詳しく解説されている。

「新国民病ロコモティブシンドローム 長寿社会は警告する」中村耕三著(NHK出版)

「100歳まで元気に歩ける体づくり『75のコツ』」大江隆史、宮地元彦、新開省二監修

整形外科医で、日本整形外科学会の「ロコモチャレンジ!推進協議会」の委員長である大江隆史氏。厚生労働省の掲げる「健康日本21(第二次)」と「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」の策定に深く関わった国立健康・栄養研究所の宮地元彦氏。1000人を超える高齢者を10年間追跡して、身体活動や肥満度、栄養状態と寿命や自立度との関連を見出すなど、高齢者の健康寿命の研究を続ける東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二氏。この3氏による監修で、現時点でのロコモと健康寿命に関わる様々なデータ、対策法などが網羅されている盛り沢山な1冊である。

ロコモの評価法のロコモ度テストや、ロコトレ(片脚立ちとスクワット)やロコトレにプラスしてお勧めのヒールレイズ(かかと上げ運動)やフロントランジの図解入り説明もわかりやすい。

また、「ゆるラク運動(ゆるやかでラクにできる運動)」の解説では、重要な筋肉それぞれの鍛え方や、ひざや腰などそれぞれに対する運動メニューが示されている。対象部位や目的とともに、柔軟性アップ、筋力強化、バランス向上などの効果も明示されているので、自分にあった運動を選んで続けると良い。

食事編では、最近高齢者で問題となる低栄養の何が良くないのか、将来に何が心配なのか、どのような食事を摂ると良いのかなどが丁寧に書かれてある。

「100歳まで元気に歩ける体づくり『75のコツ』」大江隆史、宮地元彦、新開省二監修(NHK「きょうの健康」番組製作班/主婦と生活社)

「ロコトレ健康法」石橋英明著

ロコモの定義の中の「運動器の障害」とは、運動機能の低下と運動器の病気を合わせたものである。運動機能の低下は、筋力やバランス能力、柔軟性、持久力を意味し、運動器の病気は、中高年者に多い膝の病気、腰や背骨の病気、そして骨が弱くなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などを意味する。こうした運動器の問題を予防・改善することは、将来の要支援・要介護への進行を防ぐだけでなく、現在の足腰の健康状態も改善する。

本書は、運動器の状態をより良く保つために何をすれば良いかが解説されている。したがってロコモの背景や考え方、ロコチェック、ロコトレ以外に、ウォーキングなどの有酸素運動をする際の目安になるメッツ(METS:有酸素運動の強さを表す単位)についても解説され、適切な有酸素運動の方法がわかるようになっている。

後半では、膝の痛みを改善する「膝伸ばし運動」や、腰痛に大きな効果のある「上体そらし運動」も図解されている。

現在の運動器の状態をよくしたい場合に、有効な1冊である。

「ロコトレ健康法」石橋英明著(KKベストセラーズ)

ロコモ・メタボ・認知症の予防が寝たきりの減少につながる~ポイントは運動習慣

要支援・要介護の要因である脳卒中は、高血圧症、高コレステロール(脂質異常症)、糖尿病を背景として発症することが多い。つまりメタボリックシンドローム、メタボの3疾患である。したがって転倒・骨折と関節疾患はロコモ予防が重要であるように、脳卒中にはメタボ予防が重要である。ロコモ、メタボ、認知症を合わせると、すべての要支援・要介護認定要因の3分の2を占めているので、この3つが予防できると寝たきり者が3分の1になるかもしれない。そこまでは言い過ぎにしても、ロコモ、メタボ、認知症予防は、これからの日本の課題である。また、先進国を中心とした世界の課題にもなっている。

ロコモがよく知られ、その意義や対策が理解され、多くの国民により予防・改善への取り組みが始められ、続けられることを期待したい。

<石橋英明(いしばし・ひであき)プロフィル>

医療法人社団愛友会・伊奈病院整形外科部長、NPO法人・高齢者運動器疾患研究所代表理事。1988年東京大学医学部卒業。東大病院整形外科、三井記念病院整形外科勤務などを経て1992年に東京大学大学院入学、1996年同終了、学位(医学博士)取得。以後、米国ミズーリ州ワシントン大学に留学、1999年より東京都老人医療センター(現・健康長寿医療センター)整形外科、2002年同医長、2004年より現職。人工関節手術、骨粗鬆症、関節リウマチなどを専門とする整形外科医で、同時にロコモや骨粗鬆症に関する講演を全国でおこなっている。また、テレビ朝日「たけしのみんなの家庭の医学」やNHK「名医にQ」「テレビシンポジウム」などのテレビ番組にも多数出演。NPO法人高齢者運動器疾患研究所では、年6回のロコモに関する講演会、講習会を開催している。日本整形外科学会ロコモチャレンジ!推進協議会委員、日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会評議員、骨粗鬆症財団評議員。