Book Review

「○○○」がわかる3冊

第10回:「女性と農業の今」がわかる3冊

東京農業大学教授原 珠里

女性が農村社会の活力を維持する

自然の中で農作物を育て食べ物を生産するという生き方に憧れる女性はたくさんいます。けれども、男性社会というイメージの強い農業への参入に壁を感じる女性も多いのではないでしょうか。戦後70年を迎えようとする今、農業の世界も変化してきています。家族の一員として働く場合の報酬や評価についての認識が高まっただけではありません。農産物の生産だけでなく、加工、販売までをトータルで捉えようとする6次産業化の重要性が知られるようになり、その分野で能力発揮する女性が多いことからも、女性の活躍を促進することに政府も力を入れ始めました。若さと能力をもった多くの女性たちが、農業・農村に関心を持つことが農村社会の活力を維持することにつながっていくと思われます。今回は、女性と農業について考える上で参考になると思われる3冊をご紹介します。

『山形ガールズ農場!』菜穂子著

農業を「職業」として選択した著者の行動力に引き込まれる

農家出身の著者が、教師志望から転向して実家に就農、その後「山形ガールズ農場」という女性だけの農業生産法人を立ち上げ、代表取締役として奮闘してきた軌跡を綴ったものです。いわば個人的な物語なのですが、その中に女性が農業に向き合う上での大切なポイントが盛り込まれていて、著者の行動力に引き込まれているうちに、多くを知ることができます。まずは家族農業経営と女性後継者の問題。農業経営がますます困難に直面するこの時代、自分のこどもに農業を継がせようとする農業経営主は少なくなっていますが、とりわけ女の子しかいないなら継がせるのはかわいそう、あるいは無理、と判断される場合が多いようです。著者の場合も、せっかく教師になれる道が開けているのに農業に就くことを父は反対します。しかし、著者は農業を選んだだけでなく、家族経営という枠組みを超えて女性が農業に携われるシステムとしての農業生産法人を構想することになるのです。農家に生まれなくても、農家後継者と結婚しなくても、職業として農業を選べる。そういう仕組みは重要です。

また目指す目標としては食育の大切さがキーになります。都会の生活者は、自分たちの食べる物について何も知らない、それは子供たちに善くない影響を与えると著者は言います。食べ物の素晴らしさをどう伝えるかに加え、流通の問題、補助金について、六次産業化や付加価値について、多くを考えるヒントがつまっています。

『山形ガールズ農場!』
菜穂子著(角川書店)

『農家女性の社会学』靍理恵子著

学術書ながら臨場感もって農村女性が生きてきた時代の変化綴る

農業の世界、農村社会は男中心の社会だというイメージは残念ながらある程度正しいでしょう。舅・姑・夫に仕えることを基本的な態度として期待されてきた農家の「嫁」が、1980年代以降どのように変化してきたのか、多様で綿密なフィールドワークに基づいて読み解いているのが本書です。女性個人に着目し、フェミニズムの視点をもつことで、見過ごされがちだった農業や農村における女性の役割を浮かび上がらせています。例えば、女性たちが朝市を運営することを通じて、はじめて自分の財布、つまり経済力をもつことになったことが、自分だけでなく家族や地域社会にどのような影響を与えることになったのかが丁寧に描かれます。また、家庭菜園での労働は家の中での無償労働にすぎなかったのが、販売の場を得ることでその意味を大きく変化させうることを示しています。

そして、農家女性たちが、家やムラに支配的な社会規範と正面から戦うのではなくて、それを操作しながら力を獲得してきた様子を明らかにしています。学術書ではありますが、農家女性自身の声が壱岐島や岡山といった地域のことばで数多く紹介され、直接に彼女たちの話を聞いているかのような臨場感をもって、女性たちの生きてきた時代とその変化を読み取ることができると思います。

『農家女性の社会学』
靍理恵子著(コモンズ)

『農村社会を組みかえる女性たち』原珠里・大内雅利編

なぜ政治の世界で女性が力を持ちにくいのか、を考えるヒントも

男性と女性の関係のあり方は、例えばスウェーデン社会と日本社会では異なるわけですが、それだけでなく、日本の社会の中でも、政治、経済、教育など、それぞれの領域における特徴をもっています。農村社会においても同様です。そこに着目しておこなわれた日本村落研究学会のシンポジウムの報告を中心に編まれたのが本書です。各章は、施策、地方政治、家族、経済活動、価値観を核として展開されます。1990年代以降進展した農村女性関連施策は、各地でいろいろな成果を生みました。しかし、2000年代以降、農村における男女平等への施策の動きはやや停滞しているとみられています。各章では、そのような時代背景を共通項として、それぞれのテーマに関する各地の事例に基づいた精緻な分析がなされています。そして全体として浮かび上がるのは、なかなか男女が対等にならない政治の世界、一方で女性が力をつけ地域社会をリードしている例もみられる経済活動の世界、そしてその間で揺れているともみられる家族という構図です。日本社会全体を考えても類似の構図があると思われます。なぜ、政治という重要な意思決定の領域において日本女性が力を持ちにくいのか、農村社会における構造はその原点を考えるヒントになるのではと思います。

農業の世界や農村に飛び込もうと考えている若い女性たちに、またそういう女性たちを支援する仕事をされている方々、農業の世界で奮闘していらっしゃる女性たちに、この3冊を参考にしていただけることを願っております。

『農村社会を組みかえる女性たち』
原珠里・大内雅利編(農文協)

<原 珠里(はら・じゅり)プロフィル>

東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科農業史・農村社会研究室教授。独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター主任研究員などを経て現職。専門は農村社会学。著書に『農村女性のパーソナルネットワーク』(農林統計協会)ほか。