Book Review

「○○○」がわかる3冊

第8回:「認知行動療法」がわかる3冊

国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長大野 裕

認知行動療法とは――ストレス対処のエッセンス

認知行動療法(認知療法とも呼びます)は、私たちが、気づかないうちに上手にストレス対処している方法のエッセンスを集めたものです。ですから認知行動療法には、“療法”として専門家が行う治療の技法としてだけでなく、毎日の生活の中で使えるヒントとして使える方法がたくさん含まれています。

そうしたことから、認知行動療法の解説書がたくさん発刊されていて、それを読んで生活の中で利用するだけでも、気持ちが楽になることがわかっています。専門的にはそれを読書療法と呼びますが、今回は、こころが疲れたときに読むと役立つ認知行動療法の本を3冊ご紹介します。

『はじめての認知療法』 大野裕著

「問題を解決する手順」など実践法を解説。付録に診断も

認知行動療法をわかりやすく解説した本です。精神疾患を持った人や家族が作っているNPO法人コンボが発刊している『こころの元気+』という雑誌に連載した記事をまとめたもので、さらに1年かけて加筆訂正を加えました。元々が患者さんや家族向けに書かれたものだけにわかりやすい内容になっていて、認知行動療法の全体像を理解するのに役に立ちます。

認知行動療法は、意識して変えることができないつらい気持ちを、意識すれば変えることができる考えや行動を使って変えようというものです。考えや行動が変われば気持ちが変わるからです。例えば、辛い気持ちになったときにちょっと立ち止まって、考えすぎていないかどうか振り返ったり、問題に対処する方法をいろいろ考えたり、気分転換をしたりすれば気持ちは軽くなります。

そうした方法を体系立てて使いやすくしたものが認知行動療法で、この本は、「まず行動を少しだけ変えてみよう」「問題を解決する手順」「身体とこころをリラックスさせる方法」「自分の気持ちを伝えるには」「コラム法のすすめ」など認知行動療法の具体的な実践法を解説してあります。その他、国際的に使われているうつ度チェック日本版QIDS-Jや自己学習サイト『うつ・不安ネット』についても紹介しています。

『はじめての認知療法』
大野裕著(講談社現代新書)

『自分でできる「不眠」克服ワークブック』渡辺範雄著

効果が科学的に証明され、悩む人に試す価値あり

不眠は、とてもよく見られる症状の一つです。成人の30%以上が寝付けない、夜中に目が覚める、朝早く起きてしまう、などの問題を抱えていると言われています。このような問題は、慢性的になると昼間も眠気が残り、体がだるかったりものごとに集中できなかったりするなど、生活への支障もきたします。

睡眠薬などの薬を使う治療もありますが、薬を使わないでも治す方法があります。そのなかでも、不眠の認知行動療法と言われるものがあり、世界中の研究で効果が示されています。わが国でも、この治療を実際の患者さんに対して行うことで効果を確かめた研究があって、不眠だけでなく抑うつ気分もよくなり、昼間の生活が改善するということがわかりました。

その研究では、不眠の認知行動療法をもう少し簡単にやりやすく改良した短期睡眠行動療法が使われましたが、この本はその方法を紹介したものです。睡眠の環境を整えたり、睡眠の日記をつけて一週間ごとに睡眠のスケジュールをたてたりすることで、不眠を少しずつ治していきます。

本書を読んだだけですぐ良くなるわけではありませんが、手ごわい不眠に対しても科学的に正しいやり方で効果が証明されており、不眠で悩んでおられる方は試す価値があると思います。

『自分でできる「不眠」克服ワークブック』
渡辺範雄著(創元社)

『こころを癒すノート』伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著

トラウマ体験による心の傷をいやし和らげる

震災に限らず衝撃的で恐ろしい体験(トラウマ体験)を経験し、そのために精神的なつらさや苦しみ、こころの傷を抱えるようになっている人は少なくありません。この本はそうした人たちのために書かれたものです。この本では、認知行動療法のひとつである、心的外傷後ストレス障害に対する認知処理療法をわかりやすく紹介し、この療法の一部を練習できるように作られています。

不幸にも、それまで何事もなく過ごしていた方が衝撃的なトラウマを体験すると、それまでに持っていた世界観や人生観がくつがえされてしまいます。例えば、「世界は危険だ」「人は信頼できない」「自分はなにもできない」「もう人生を楽しむことはできない」「人と親しくなんてなれない」といった考えを持つようになります。こうした考えのために体や心が不調になり苦痛を体験するようになるのです。

この本を通して、そうした考え方について改めて落ち着いて考え直していくことで、トラウマに関連した苦しみが和らぐことが期待されます。


本を読むだけですべてが解決されるわけではありませんが、解決の手がかりを手に入れることはできます。この3冊が皆さまのお役に立つことを期待しています。

『こころを癒すノート』
伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著(創元社)

<大野裕(おおの・ゆたか)プロフィル>

1978年慶應義塾大学医学部卒業と同時に、同大学の精神神経学教室に入室。コーネル大学医学部、ペンシルバニア大学医学部への留学を経て、慶應義塾大学教授(保健管理センター)を務めた後、2011年6月より独立行政法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長、一般社団法人認知行動療法研修開発センター 理事長。日本認知療法学会理事長。日本ストレス学会理事長。日本ポジティブサイコロジー医学会理事長。国際的な学術団体認知行動療法アカデミー(Academy of Cognitive Therapy)のフェローで公認スーパーバイザー。認知活用サイト『うつ・不安ネット』監修。