Book Review

「○○○○」がわかる3冊

第4回:「人口減少社会という希望」がわかる3冊

千葉大学法政経学部教授広井 良典

最近、人口減少に関する議論が活発になっている。5月には「日本創成会議」の分科会が、今後の人口減少に関する予測を発表して注目された。その内容は、たとえば2040年には全国の約半数にあたる市区町村で20~39歳の女性の数が現在より半分以下となり、また523の市区町村では人口が1万人未満となり、それらの自治体は「消滅の危機」に直面するというものである。これ以外にも、人口減少社会とそれへの対応に関する様々な報告書などが相次いでいる。

人口減少への対応をどう考えていくかは難しいテーマだが、私は次のような視点が重要ではないかと考えている。一つは、“経済が成長すれば出生率も高まる”といった発想のみで物事を考えないという点だ。たとえば日本の都道府県でもっとも出生率が低いのは東京で、逆にもっとも高いのは沖縄である。経済的にはもっとも「豊かな」東京が最低で、県民所得がもっとも低い部類の沖縄が最高なわけだ。こうした事実を踏まえると、経済や「スピード」一辺倒の発想ではなく、むしろある程度以上の時間的・精神的ゆとりのある社会にしていくことが、結果的に出生率の改善につながると思えるのである。言い換えれば、“24時間戦えますか”的な発想ではなく、「北風より太陽」的な発想が大切ではないか。

こうした視点も踏まえ、人口減少社会を考えるにあたってヒントになる本を3冊挙げてみよう。

『ヤンキー経済』 原田曜平著

若い世代のローカル志向とその支援に鍵

この本は、最近の若い世代が「地元」志向を強めていること、またそうした比較的狭い範囲での人間関係や生活を重視していることを、印象深い筆致で描いたものである。著者は広告会社の博報堂で若者の消費の消費行動などを分析している。

本書の内容も視野に入れつつ、もう少し広い視点で論じると、私は人口減少社会への対応において、この本でも描かれているような若い世代のローカル(地域)志向と、それに対する支援のありようが鍵になると思っている。

大学のゼミの学生などを見ていて、「社会貢献」への関心の強さと並んで、地域の再生や活性化に関わっていきたいという者が近年明らかに増えているのを感じてきた。たとえば岐阜県出身のある学生は、卒業後いったんは東京の大企業で働いていたが、“自分はやはり地元の活性化に関わっていきたい”との理由でそこを2年ほどで退職し、郷里に戻って地域の地場産業で働くことになった。最近の例では、もともとグローバルな問題に関心があり、1年間の予定でスウェーデンに留学していた女子の学生が、やはり自分は地元の活性化に関わっていきたいという理由で、留学期間を半年に短縮して帰国したという例があった。

こうした若い世代の志向について、「最近の若者は内向きになった」と批判する意見もあるが、むしろこうした傾向は“日本や地域を救っていく”動きと見るべきで、それに対する積極的な支援策こそが求められていると私は思う。

いま「支援策」と述べたが、これについては次の2つの視点が重要だろう。一つは、現在の日本でもっとも失業率が高いのは10代後半から30代前半の若年層であり、またこの世代は社会保障の負担も他の世代に比べて大きい。加えて、20-30代の男性の年収が300万円以上か未満かで結婚率に大きな違いがあることが明らかになっており、つまり現在の若い世代が経済的に不利な状況にあり、それが晩婚化や未婚化につながっているのは確かなのである。したがって雇用、教育、住宅等を含めた若い世代への公的な支援策――私はこれを「人生前半の社会保障」と呼んできた――の大胆な強化が求められている。

また、今後重要なのは、中規模以下の都市や農村部に若者が定着するための支援策である。「ヤンキー経済」にも示されるように、従来のような東京など大都市への志向は今後弱まっていくと思われるが、それは中堅の地方都市(とその郊外)くらいのレベルにとどまり、それよりも小規模な地方都市や農村部では、放置していれば若者の流出や人口減少が今後も続いていくだろう。言い換えると、若者のローカル志向が高まっていると言っても、特に中規模以下の地方都市や農村部になると雇用や生活保障等の面でハードルが多い。したがって現在すでにある「若者地域おこし協力隊」のような制度の大幅な拡充や、自然エネルギーや農業等の分野に着目した支援策の強化が積極的に進められていくべきだろう。

『ヤンキー経済』
原田曜平著(幻冬社新書)

『逝きし世の面影』 渡辺京二著

3000万人強の江戸時代に見る豊かさと幸福

続いて紹介する本書は、江戸時代末期から明治の初めにかけて日本を訪れた外国人が、当時の日本社会や人々の様子について記した著作や様々な文章を、いくつかのテーマに沿ってまとめ、さらに著者の分析や見解を加えたものである。ロングセラーとなっており、既に読まれたという方も多いと思われるが、私自身は学生の卒論を通じて本書を知り、読んで大きな感銘を受けた。

本書をここで取り上げる理由の一つは、江戸時代(の後半)は人口が3000万人強で安定しており、人口増加を前提としない「定常型社会」を実現していたからである。印象深いのは、当時の日本を訪れた外国人が、口をそろえて「これほど幸せそうな人々を見たことがない」と記している点だ。最近の様々な国際比較調査で、日本人の幸福度が諸外国に比べてかなり低いことと対照的である。また同じく現在とは逆に、「日本人は本当にのんびりしていて、あまり働こうとしない」という感想を多くの外国人が述べているのも印象的である。つまり、「日本人は労働時間が際立って長い」とか「過労死」といった認識や現実が定着していったのは、実は明治の初め以降の人口の急激な拡大・増加の時期(ひいては戦後の高度成長期)という時代と重なっているのである。これからの人口減少時代は、そうした“ラッシュ・アワー”のような社会のありようから少し方向転換し、新しい視点で「豊かさ」や「幸福」の意味を考えていく時代なのではないか。そうした日本の将来像を、大きなスケールで考えるにあたって本書は多くのヒントを与えてくれる。

『逝きし世の面影』
渡辺京二著(平凡社ライブラリー)

『人口減少社会という希望』 広井良典著

「地域への着陸」の時代へと発想を転換

最後に、以上述べてきたような視点を含めて、手前味噌ながら拙著も紹介させていただきたい。人口減少社会についてはマイナス面ばかりが論じられる傾向にあるが、発想を変えれば、それは上記のように日本が真の意味での豊かさを実現していくにあたってのむしろ絶好のターニングポイントとなる時期であり、また人口減少社会は「地域への着陸」の時代であるというのが基本的な認識となっている。

ポイントとなる一つは「コミュニティ経済」という視点だ。商店街や自然エネルギー関係などを含め、地域の中でヒト・モノ・カネがうまく循環していくような仕組みを作っていくことが、グローバル化に対してもむしろ強い経済となり、また人々のコミュニティ的なつながりも発展していく。また、これからの時代は人間にとっての精神的なよりどころも重要で、日本における自然信仰と自然エネルギーによる地域再生を融合させた試みとして、筆者が進めている「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想」や、「地球倫理」ともいうべき新たな価値原理についても論じた内容になっている。御意見や御感想、御批判をいただければ幸いに思う次第である。

『人口減少社会という希望』
広井良典著(朝日新聞出版)

<広井良典(ひろい・よしのり)プロフィル>

1961年岡山市生まれ。東京大学教養学部、同大学院修士課程修了後、厚生省勤務をへて96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間、2001年―02年マサチューセッツ工科大学客員研究員。専攻は公共政策及び科学哲学。社会保障、医療福祉、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観等に関する哲学的考察まで幅広い活動を行っている。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大仏次郎論壇賞受賞。他の著書に『定常型社会』(岩波新書)、『創造的福祉社会』(ちくま新書)、『人口減少社会という希望』(朝日選書)など多数。