Book Review

「○○○○」がわかる3冊

第3回:「地方の時代」がわかる3冊

編集者・ノンフィクション作家岩中 祥史

ここ10年近くなるだろうか、東京では毎週末、地方ナンバーの車の姿が目立つ。かつてならその地方の中心都市に出かけていた人たちが、そちらを飛ばし東京にやって来るのだ。東京への一極集中、それに反比例する地方の落ち込みは年々ひどくなっている。県庁所在地クラスの都市でも、昼間の中心商店街は衰退の一方だ。このままだと、日本イコ-ル東京になってしまいかねないだろう、その対策を東京にある政府にまかせておいては、後手を踏むばかり。となれば、地方が自前でパワーをつけるしかない。東京の真似ではなく、その地方(道府県)独自のハード、ソフトをつちかう必要がある。いまから「つちかう」のではえらく時間がかかりそうな気もするが、希望を捨ててはならない。地方の繁栄なくして東京、日本の繁栄はないのだから。生き延びるといった消極的な発想ではなく、「(東京から)奪い取る」くらいの気概が求められる。その支えとなるバックボーン、土台を強化するために知っておきたい情報が得られるという角度で、3冊の本を選んでみた。

『地域再生の罠──なぜ市民と地方は豊かになれないのか?』 久繁哲之介著

愛情なき町おこしは必ず失敗する

地方、わけても小都市、町村の地盤沈下が叫ばれ始め、すでに久しい歳月が経っている。そうした中、全国各地で、「地域活性化」「町おこし」といった言葉が人口に膾炙(かいしゃ)し、心ある人の多くがその課題に取り組んできた。しかし、そこには決定的に欠けているものがあるというのが著者の主張だ。

それは何か──。住民の目線、人の心と交流、地域の文化など、いくつか挙げられるが、いずれも、自治体が取り組んでいるその種の事業にはまず見られないものばかり。逆に、当の自治体はそうしたものを無視し、もっぱらビジネスとして関わろうとする「土建工学者」たちの言いなりになってしまっているというのだ。

徳島県上勝町や佐賀県武雄市などがこうした取り組みで見事な成功を収めているのは、先にあげた要素がそろい、しかもそれらにこだわる「人」がいたことに尽きる。そうした成功事例のうわべだけを模倣したところで成功は絶対ない、とまで著者は言い切るが、100パーセント同感である。

外からやってきた関係者が、いくら綿密に「視察」したところで成功の要因はつかめない、必要なのは「体感」だともいう著者は地域再生プランナー。全国でそうした観点からのアドバイスを続けてきているだけに、説得力がある。そうした活動の中から生まれたいくつかの指針は、関係者にとって大いに役立つはずだ。

そして、究極は、「地域活性化」「町おこし」の当事者である市民一人ひとりが、同じ地域(町)に暮らす人々とともに、その地域(町)への愛情を失わないことである。

『地域再生の罠──なぜ市民と地方は豊かになれないのか?』
久繁哲之介著(ちくま新書・筑摩書房)

『都市をつくる風景 「場所」と「身体」をつなぐもの』 中村良夫著

風景への共感が地域再生の原動力

東京・日本橋周辺の空間を見事なまでに壊してしまっている首都高速道路の高架。それが、2020年の東京オリンピックを機に取り払われ地下化されることに、とのニュースには、多くの都民が納得しているのではなかろうか。半世紀ほど前、日本初のオリンピックに間に合わせるため突貫工事で作られたそれが、都市の美観を著しく損ねてしまったとは──。だが、当時の日本人にはそうしたことに思いを致す余裕はなかったのだろう。

しかし、日本人だけでなく、世界中の人が、「水」に対しては強い親近感を抱いている。母体の中にいるとき羊水の中で育ってきたためかどうかはわからないが、だれもが不思議に、「水」を目にしたとき、心がいやされる。それをほとんど台無しにしてしまうような都市の設計は、いずれ葬り去られる運命にあったのかもしれない。

いま全国各地で人々のそうした気持ちに応え、「水」を風景に取り込んだ都市設計が高い評価を受け、注目されつつある。著者はそうした基本方針に従って、全国の都市計画にたずさわってきた研究者。氏の提唱する「風景学」には共感できる部分が多い。

人間の原初的な感覚にフィットした風景を確保することもあろうが、それより大切なのは、そこに住まう人々がその風景に共感を覚えるかという点である。それをベースに住民たちが心と心を通い合わせ、地元への愛着を深める──。それこそが本当の意味で町を蘇生させ、地域を活性化する原動力であることに、もう一度思いを致したいものだ。

『都市をつくる風景 「場所」と「身体」をつなぐもの』
中村良夫著(藤原書店)

『新 出身県でわかる人の性格』 岩中祥史著

地元気質を活用し斬新なソフトを編み出す

昨今の「県民性」ブームの起爆剤になった旧作の全面改訂版。「地方の時代」を現実のものにするには、当事者たちの地元への愛がいちばんだが、その根拠となるものをどれだけたくさん押さえているか──これが意外と少ないのだ。地元のことというのは、あまりに日常的というか、当たり前すぎるため、気づいていないケースが少なくない。むしろ部外者、ラチの外にいる者から新鮮な魅力を指摘されたりする。そんな“気づき”を得てほしいとの思いで書かれたのがこの本である。

その背景には、著者が多感な時代を過ごした名古屋を素材とする本を数多く上梓して得た経験がある。いちばん反応が多く、また強かったのは当の名古屋だった。以来、信州(長野県)、博多(福岡)、札幌、福岡と取り上げてきたが、結果は同じであった。

地元を知らなければ地元への愛は生まれない。それも、単なる観光自慢やグルメ自慢にとどまらず、そこに生まれ、育ち、暮らす人たちの気質に焦点を当てているから、“気づき”の度合いも深まるはずである。

気質には、長所もあれば短所もある。だが、それは当たり前のことで、問題は、長所をいかに伸ばすかだ。それを活用して、その土地独特の香り、ユニークさをアピールできれば、ほかの土地の人たちにもそれを経験してもらいたいとの思いも高まってくる。

この本は、そうしたことを実現したいと願っている人たちの役に立つはずである。その地域にしか見られないハード、その土地と深く関わる人々の愛情、それにプラスして気質や性格をベースにした斬新なソフトを編み出すことで、初めて「地方が主人公の時代」は実現するのではなかろうか。

『新 出身県でわかる人の性格』
岩中祥史著(草思社文庫・草思社)

<岩中祥史(いわなか・よしふみ)プロフィル>

1950年生まれ。編集者・出版プロデューサー・ノンフィクション作家。『名古屋学』『博多学』『札幌学』『広島学』の〝都市学〟シリーズをはじめ、『出身県でわかる人の性格』『不思議の国の信州人』『名古屋の品格』『県民性仕事術』などを著し、昨今の「県民性」ブームの火付け役とも。最新作は『鹿児島学』『「城下町」の人間学』。