Book Review

「○○○○」がわかる3冊

第2回:「レジリエンス(復活力)」がわかる3冊

金沢大学 地域創造学類 准教授香坂 玲

レジリエンスとは―― ダメージや失敗から しなやかに修復して安定する

レジリエンス(レジリアンスとも表記)という言葉は、お聞きになったことがありますか。
大まかには、あるものが外部からのショックからしなやかに、時には前とは形を変えながら回復することを示します。化粧品の商品名にもなっていることからも、ダメージを受けた何かが弾力的にみずみずしさを取り戻す様子が、語感からは想起されるのでしょう。
扱われる分野は、大きくは、個人のレベルの心理学、生態系、交通・インフラ、地域コミュニティなどのシステムの場合もあります。またシステムのレジリエンスの場合でも、「工学的」と「生態学」なものに分かれます。

今回は、米国の網羅的な入門書と合わせて、国内で3.11以降に書かれ、主題が地域コミュニティの本と、交通・インフラのシステムのレジリエンスを論じた二冊をまずは読み比べます。

概念を知る―システムや個人の感情が失敗や傷を乗り越える事例を紹介

「レジリエンス 復活力――あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か」アンドリュー・ゾッリほか著

ジャーナリストも共著者として執筆しており、レジリエンスという概念を、縦横無尽に様々な題材を取り扱っています。熱帯雨林、結核菌、スマートグリッド、インターネット、金融、都市、テロ組織、あるいは強制収容所での個人的体験を描写しながら、失敗や傷を受けながらも、システムや個人の感情が乗り越えていくのかが描かれています。概念の事例集ともいえ、概念にまずはザッと触れてみたいという人には向いているでしょう。

「レジリエンス 復活力」 アンドリュー・ゾッリほか著

歴史と展開を知る―地域コミュニティに絞って共生の重要性を指摘

「地域のレジリアンス 大災害の記憶に学ぶ」香坂玲編著、半藤逸樹ほか著

私自身が編集した本ですが、地域コミュニティのレジリエンスに焦点を絞っています。総合地球環境学研究所の半藤・窪田氏による「レジリエンス概念論」は、レジリエンスの概念の歴史とその展開、また工学と生態学的なレジリエンスの違いを丁寧かつ正確に解説しています。現状からの望ましい将来を想定するのではなく、あるべき社会や共生を模索する重要性が指摘されています。他にも、東日本大震災時の松田曜子氏のボランティア活動の標準化・マニュアル化と「局所的最適解」の相克、東洋大の関谷直哉氏による風評被害などの分析があります。後半はガスや建設業者による復旧活動、森林組合による木造の仮設住宅建設の苦難の取り組みも紹介しています。

「地域のレジリアンス」香坂玲編著、半藤逸樹ほか著

工学的レジリエンス―国土強靭化政策の背景を解説

「救国のレジリエンス 『列島強靱化』でGDP900兆円の日本が生まれる」藤井聡著

工学的なレジリエンスに重きをおいた著作で、インフラの重要性を訴えています。北陸を地域を含む日本海側や北海道での鉄道網などのインフラ事業と、それに伴う交流が日本に活力や分散化をもたらすというのがその主張です。副題が示すように、インフラの公共事業を通じてこそが今後の歩むべき道だとしています。現在、進行中の国土強靭化政策のバックボーンとなっている考えを理解するのに役立つでしょう。財政的な議論や地域コミュニティの解説には若干物足りなさも残ります。
かつての重厚長大なインフラの復活ではなく、より生活者に寄り添った視点を取り入れるのか、政策的な立場、専門分野融合で示していく必要性を改めて感じました。

「救国のレジリエンス」 藤井聡著

元通りになるだけでなく、仕組みを変えながら安定

まだまだ馴染みがない「レジリエンス」というと、「難しい」と感じてしまうかもしれません。まずは簡単な像として、お椀のなかにボールをいれて、お椀を振ると、ボールが振動しながらも底で安定していく様子を思い浮かべてみてください。ただ、全く前の元通りに戻る姿だけではなく、実際にはさまざまに形や仕組みを変えながら、というところがポイントなのです。例えば、お椀(わん)の例であれば、実際には外に出て安定することもあるので複数の窪(くぼ)みを想定することもあり、全く前の元通りに戻る姿だけではないのです。前とは違った状態になりながらも、とにかく、ショックの揺れから安定していく様子を示しているのです。

今後、環境、地域コミュニティ、経済、インフラなど、さまざまな分野で、日本が直面していく課題を読み解くのに、鍵となる概念となっていきそうです。

道路や鉄道でも、人と人とのつながりも、どのようにつなげていくのか、三冊を読み比べながら、皆さんも考えてみてください。

<香坂玲(こうさか・りょう)プロフィル>

金沢大学大学院人間社会環境研究科地域創造学専攻准教授。1975年、静岡県生まれ。東京大学農学部卒業。ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国で修士、ドイツ・フライブルグ大学の環境森林学部で博士号取得。2006年からカナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局での勤務を経て、2008年4月から2012年3月まで名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。2012年4月から現職。 近著に、「地域のレジリアンス」(清水弘文堂書房)、「地域再生 逆境から生まれる新たな試み」(岩波書店 岩波ブックレット)など。