Book Review

「○○○○」がわかる3冊

第1回:ストレス解消に役立つ3冊

脳科学者中野 信子

ストレス解消にいいとされるのは笑うことが一番。もう一つは思いきり泣くこと。そしてもう一つは同調性の原理といわれるものです。それぞれの効用をもたらしてくれる作品をそれぞれ挙げてみましょう。

笑う── 緊張状態をほぐし、免疫力アップ

奥田英朗著「空中ブランコ」

精神科医の伊良部一郎氏が繰り広げるキテレツな世界ですが、とても魅力的で、そこに読者を巻き込んでくれる軽妙洒脱、奇想天外な展開が、深く考えることなくワッと笑える作品です。 笑いがなぜストレス解消にいいかというと、笑うとがんを攻撃する体内のNK細胞が活性化されるからです。笑いは、緊張状態にあったものが、いきなり解ける時に起こるのですが、「空中ブランコ」はまさに読者の予想を小気味よく裏切ることで、高めに張ってあった緊張というテンションをふっと緩めるうまさがあります。 予想するという能力は人間特有のものであると同様、その期待が裏切られた時に起こる笑いも人間独自のもの。「そう来たか」という新鮮な驚きがドーパミンを放出させ、快感や喜びをもたらしてくれるのです。

「空中ブランコ」
奥田英朗著

泣く── 痛みを抑え、癒しをもたらす

百田尚樹著「永遠の0(ゼロ)」

映画化されたこともあり、既に多くの方が読まれているかもしれませんが、泣くには打ってつけの作品ではないでしょうか。百田さんのうまさはストーリーをルポルタージュにとどまらせることなくミステリー仕立てにしているところです。主人公の祖父が臆病者とけなされるところから始まり、さまざまな証言を探っていく中で次第にその人物像が浮かび上がっていき、最後は意外なところにその答えが……という巧みな構成が、感動と涙を誘います。

涙にはIgA(免疫グロブリンA)が含まれているのですが、これが人を癒す効果があります。また、痛みと炎症の指標であるIL6(インターロイキン6)という物質が泣いた後では減るという実験結果があり、痛みや炎症を抑える効果もあるといわれています。

「永遠の0(ゼロ)」
百田尚樹著

同調性の原理── 自分と同じ感情描いた作品がつらさを緩和

湊かなえ著「夜行観覧車」

家庭内の問題、親子間の相克など、身近な場面を扱っていますが、優等生的な人物はひとりも登場しません。人間は、どこかゆがんだ形でリアルに描かれていて、そこが魅力的な作品です。そのリアルな描写の中で、負の感情、暗い感情をもってもいいんだと肯定されることに、癒しの効果があります。すごく暗いトーンの部分もありますが、最後はほっとする形で終わるのが救いとなっています。

「同調性の原理」とは少し難しく聞き慣れない言葉ですが、悲しい気分の時に暗い曲を聴くことで気持ちが落ち着いたり、嫌な感情に掻き立てられた時に、そうした感情が描かれた作品を読むことでつらさが緩和されたりするというものです。

「夜行観覧車」
湊かなえ著

自分を客観視する「メタ視点」でストレスをコントロール

ストレスはとかく悪者扱いされがちですが、適度なストレスがやりがいや、やる気をもたらすという効用もあります。ポイントは、いかにコントロールしていくかです。

ただ、手も足も出ないくらいのストレスレベルにある場合は時には戦うことをやめる勇気が必要です。そのために自分を客観視する「メタ視点」が不可欠です。つまりストレスでつぶれそうになっている自分を外側から客観的な視点で見つめること。

この助けとなるのが、本を読むという行為です。

紹介した本もそうですが、多くの小説は、たくさんの視点から構成されています。これと同様、自分という人物像も複数の視点から立体的に眺める作業が実は重要なのです。

そうすると、「自分はなんとうぬぼれていたのだろう」とか、逆に「客観的に見てみると、意外と結果を出すことができていた」ということに気づくと思います。また、「仕事以外の面でも評価してくれている人がいる」とか、「あの人は仕事はそこそこだけど、あの人がいないと回っていかないんだよね」という評価があったりなど、たくさんの視点での評価が浮かび上がってくるものです。そういう視点を自分の中に作るというだけで、ストレスレベルがグーンと下がっていく可能性があるのです。

さまざまなシチュエーションに応じて、本を読むことがストレスのコントロールに大いに役立つことは間違いありません。

紹介させていただいた3つのパターンの小説を参考に読書でのストレス解消をぜひ試してみてください。

<中野信子プロフィル>

脳科学者。医学博士。横浜市立大学客員教授。世界で上位2%のIQ所有者のみが入会できるMENSAの会員。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。身近な人間の振る舞いをサイエンスの言葉で冷徹に分析する切り口の鮮やかさに定評がある。著書に「世界で通用する人がいつもやっていること」 (アスコム)、「脳科学から見た祈り」(潮出版)、「科学がつきとめた『運のいい人』」(サンマーク出版)など多数。新刊として「脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」 (幻冬舎新書)、東大卒の女性脳科学者が、金持ち脳のなり方、全部教えます。」(経済界)が好評発売中。