Book Review

マンガde社会問題

文/前原政之(フリーライター)

第2回:くさか里樹『ヘルプマン!』

「高齢者問題を描いたマンガ」の決定版

高齢者(65歳以上)人口が2013年に全体の25%を超え、「4人に1人が高齢者」となった日本。この割合は今後も上昇をつづけ、2035年には33.4%――つまり「3人に1人が高齢者」の時代が到来すると見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。
 近年、マンガの世界にも、急速に進む高齢化を反映した作品が次々と登場してきた。たとえば、認知症になった母親とのふれあいをあたたかいユーモアの中に描き出した『ペコロスの母に会いに行く』(作・岡野雄一)などである。
 それらの中でも決定版ともいうべき作品が、今回取り上げる『ヘルプマン!』。日本漫画家協会賞大賞受賞作であり、高齢化社会のさまざまな問題をわかりやすく描き出した作品として、今後これを超えるものは出てこないだろうと思わせる秀作だ。
 主人公は、高校を中退して介護の世界に飛び込んだ恩田百太郎。どんな老人ともすぐに打ち解けてしまう、介護士になるために生まれてきたような青年である。いっぽう、百太郎の同級生で、やはり介護の世界に進む神崎仁は、直情径行型の熱血青年・百太郎とは対照的な、クールな理論派だ。
 『ヘルプマン!』は、このコンビを核とした群像劇であり、百太郎がさまざまな壁にぶつかりながら成長していくさまを描く「ビルトゥングスロマン」(成長物語)でもある。 ストーリーの中で百太郎たちがぶつかる「壁」は、多くの場合、そのまま日本の高齢社会の問題点であり、介護保険などの制度が内包する矛盾・限界でもある。 読者は、「壁」に直面して悩む百太郎たちの姿を通して、老人介護の光と影を知ることができるのだ。 
 たとえば、コミックス18~20巻の「成年後見制度編」では、認知症高齢者などを守るために生まれた成年後見制度が、一方では家族による高齢者の財産使い込みの温床になっているという、影の側面が描き出される。

『ヘルプマン!』イブニングKC (講談社)

深刻な問題を扱いながら、希望を感じさせる

『ヘルプマン!』はシリーズ連載の形式をとっている。百太郎と仁が全体の主人公/副主人公となるものの、それ以外の登場人物はシリーズごとに代わり、扱うテーマも変わる。既刊27巻のコミックスは、15のシリーズに分かれている。
 各シリーズのテーマは、どれも深刻なものだ。認知症の在宅介護、家族による「介護虐待」、老人の性、独居老人の孤独死など……。
 だが、深刻なテーマを扱いながらも、本作はちゃんとエンタテインメントになっている。ハラハラドキドキのスリルがあり、痛快な勧善懲悪のドラマがあり、胸を打つ熱いセリフがある。ベテランマンガ家・くさか里樹の円熟の作劇術によって、ストーリーを楽しみながら老人介護の現実を学ぶことができるのだ。
そして、シリーズ各編とも、最後は読者に希望を抱かせる終わり方になっている点が素晴らしい。高齢社会のネガティブな側面をえぐるのみならず、ポジティブな側面にもしっかりと光を当てたマンガなのである。  

コラム/介護保険の黎明から現在までを映し出すマンガ

『ヘルプマン!』は、2003年にコミック誌『イブニング』(講談社)で連載開始され、2014年にいったん完結。そして、同年末からは『週刊朝日』に舞台を変えて連載継続中である。老人介護の世界を描いたマンガが、メジャー誌に11年も連載され、新聞社系週刊誌に移籍してなおも続くというのは、“高齢化先進国”日本ならではのことだろう。
 日本で公的介護保険制度が施行されたのは、2000年。制度の黎明期に連載が始まり、現在も続く『ヘルプマン!』は、介護保険の歩みを鏡のように映し出すマンガでもある。
たとえば、第1話には「“老人介護”は不況にあえぐ日本を救う唯一の未来産業なんだよ」というセリフが出てくる。だが、その数年後の「介護職員待遇編」では、「介護職は重労働で低賃金」というイメージが定着してしまい、現場が深刻な人材難に見舞われるさまがリアルに描かれる。
また、介護保険法改正(5年ごとに行われる)や、外国人ヘルパー受け入れなどの変化が現場に何をもたらしたのかも、連載の中でつぶさに描かれている。
『ヘルプマン!』を通読することで、老人介護をさまざまな角度から考えるヒントが得られるのだ。