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「ブック羅針盤」

第4回 「独学ブーム」を考えるための本

文/山路正晃(ジャーナリスト)

一昨年(2017年)あたりから、出版界では「独学本」の静かなブームがつづいている。大人向けに「独学」を奨める本が、相次いで刊行されているのだ。その背景には、「独学で学びつづけないと社会に取り残される時代」の到来と、「独学環境の劇的な進化」がある。ブームについて考えるとともに、近刊の「独学本」の中からオススメの4冊を紹介してみよう――。

1.『「超」独学法――AI時代の新しい働き方へ』  野口悠紀雄著(角川新書/907円)

「超」独学法――AI時代の新しい働き方へ

 一橋大学教授、東京大学教授などを歴任した著名な経済学者・野口悠紀雄氏は、1990年代前半のミリオンセラー『「超」整理法』以降、一般向けビジネス書の書き手としても高い人気を維持している。その野口氏が、「独学本」ブームに乗って刊行したのが本書である。
 氏には過去に、『「超」勉強法』や、独自の英語学習法を開陳した『「超」英語法』など、本書の類書と言える著作もある。一貫して、世のビジネスパーソンたちに独学の大切さを説いてきた人なのであり、独学本の著者たるにふさわしい。
 本書は、比較的〝初心者向け〟の内容になっている。つまり、「独学を始めてみようか」と思い立った大人に対して、「なぜいま独学が大切になったのか?」を一からわかりやすく説明し、意欲維持のために背中を押す効果が高い本なのだ。
 たとえば、「第2章 独学者たちの物語」という一章を割いて、シュリーマン、リンカーン、ベンジャミン・フランクリンら、独学で人生を切り拓いた歴史上の偉人たちを多数紹介している。独学の最大のデメリットは、「一人では学習意欲の維持が難しい」点にある。この章を折りに触れ読み返すことは、意欲を維持するために大いに役立つだろう。
 また、〝なぜいま、昔に比べて独学が重要になってきたのか?〟という背景についてもていねいに解説されており、その点でも良書だ。
 野口氏は次のように言う。
 「これまでの日本では、勉強は学歴を取得するための手段だった。だから、仕事を始めてからも勉強を続ける人は稀だった。
 しかし、技術進歩と社会変化のスピードが速くなると、学校で習った知識だけでは仕事をするのが難しくなる。勉強を続けていかないかぎり、社会から取り残されていく」
 AI(人工知能)の進歩による雇用破壊のリスク、年功序列型終身雇用の崩壊など、ビジネスパーソンが「勉強を続けていかないかぎり、社会から取り残されていく」ことを示すサインは、他にも数多く挙げられる。
 遠からず到来する「人生100年時代」も、そのサインの一つだ。もはや、〝60代の定年まで一つの会社で勤め上げれば、あとは人生の最後まで悠々と年金生活ができる〟という時代ではない。定年退職後にもう一つのキャリアを重ねることが普通になるのがこれからの時代であり、そのためには定年後も独学をつづけなければならない。本書は、そうした社会変化にも十分目配りされている。
 独学の重要性が高まる一方、昔に比べて独学がはるかに容易になったのがいまという時代だと、野口氏は言う。たとえば、「英語の勉強のためには、通勤電車の中でYou Tubeの動画を開くのが一番よい」と氏は言うのだが、それはつい20年前には存在しなかった方法なのだ。海外の有名大学の講義や、語学学習の生きた素材などが、ネットを介して無料でいくらでも手に入る時代。しかも、スマホなどを使えば、どこにいても独学環境が得られるのだ。そのような独学環境の進化と、その効率的な利用法についても詳述されている。
 「独学」というと、従来は「学校に通えない人が仕方なく選ぶ次善の策」とか、「単なる趣味」などというイメージもあった。しかし、本書は「多くの場合において、独学は、教室で学ぶよりは効率的な勉強法なのである」として、独学のマイナス・イメージをさまざまな角度から払拭していく。
 大人たちが独学の第一歩を踏み出すときの羅針盤として役立つ好著。

2.『知的戦闘力を高める独学の技法』  山口周著(ダイヤモンド社/1620円)

知的戦闘力を高める独学の技法

 「ビジネス書大賞2018」準大賞に輝いたベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などで知られる経営コンサルタントの山口周氏は、日本でいまいちばん刺激的なビジネス書の書き手と言ってよい。
 山口氏は、MBA(経営学修士)を取らず、独学で外資系コンサルタントになった異色のキャリアの持ち主。その氏が、「試行錯誤しながら構築した『独学の技術体系』」を開陳したのが本書である。
 氏はビジネスパーソンの独学を、①戦略、②インプット、③抽象化・構造化、④ストックという4つのモジュールからなる「システム」として捉える。というのも、本書における独学の主眼は、書名のとおり、ビジネスパーソンの「知的戦闘力を向上させる」ことに置かれているからだ。
 しかし、従来の「独学本」の多くは、②の「インプット」にばかり内容が偏っており、「『独学術』というよりも、むしろ『読書術』『図書館利用術』というべきもの」であったと指摘する。そうした独学では「単に雑学的な知識を増やすだけ」で、「知的戦闘力を向上させる」ことにはほとんどつながらない、と……。
 「知的戦闘力」という言葉はやや抽象的だが、言い換えれば、〝独学を実際の仕事に活かす力〟ということだろう。仕事の質の向上に役立つ示唆や洞察が得られること、組織や人間に対する理解力が高まること、問題解決や創造の契機となるひらめきが起こりやすくなること……などの総和が「知的戦闘力の向上」であり、そうしたことにつながらなければ、独学は「雑学的な知識を増やすだけ」に終わってしまう。そして、検索で瞬時にして知識が得られるいま、単に「物知り」であることの価値はすでに暴落しており、知識を増やすだけの独学にはほとんど意味がないのだ。
 山口氏は①戦略、②インプット、③抽象化・構造化、④ストックについて、それぞれ章を割いてじっくりと解説し、効率的な独学のノウハウを開陳していく。それらの主張はどれも理にかなっていて納得できるし、随所に例として挙げられた古今東西のエピソードが面白く、知的な「読み物」としても楽しめる。
 最終章に添えられた、11ジャンル99冊のブックガイドも有益だ。

3.『新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法』  侍留(しとめ)啓介著(ダイヤモンド社/1620円)

新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法

 著者は米シカゴ大学でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどで働いた経歴を持つ外資系コンサル。前項の本と同様、〝外資系コンサルが書いた独学本〟であるのに、切り口が大きく異なるのが興味深い。
 本書で開陳される独学術は、「大学受験用の教材」(学習参考書など)を用いて「ビジネスに必要な知識や論理」を身につけるというもの。
 「『ビジネススキルを磨くのに、なぜいまさら受験参考書を使うのか』と疑問を感じる人もいるかもしれませんが、受験参考書ほど効率よく、ビジネスに必要な学びを得られるツールはないと私は確信しています」
 「受験生という、ある意味で最も(講師や本の)費用対効果を重視する顧客を対象としているので、定評ある受験用の教材というのは、それだけ効果や効率性が高いわけです」
 大学受験用参考書が「大人の学び直し」に有益であるという話は、作家の佐藤優氏もかねてより著作で主張してきたこと。本書の帯には佐藤氏が絶賛のコメントを寄せているが、それも理の当然といえる。
 著者は、参考書を用いたさまざまな独学を紹介し、その学びがビジネスにどのように役立つのかを逐一説明していく。たとえば、国語の「現代文」の勉強をつづけることで、ビジネスの現場で不可欠な「論理力」が高まるということが、一章を割いて詳述されている。
 参考書のみならず、リクルートの受験生向けオンライン学習アプリ「スタディサプリ」(月額1000円足らずでトップ講師たちの講義動画が見放題になる)を、大人の独学に用いるノウハウも紹介されている。
 ヘンに間口を広げず、〝受験用テキストをビジネススキル向上に役立てる〟というワンテーマを深掘りしているところが、本書の長所である。

4.『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術』  山口真由著(SB新書/864円)

東大首席・ハーバード卒NY州弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術

 「独学本」の一類型として、独学によって大きな成果を上げた当事者が、自らの学びを振り返る形式の本がある。
 たとえば、本山勝寛著『最強の独学術』(大和書房)。本山氏は経済的理由から学習塾や予備校に通うことは一切なく、独学で東大に現役合格。さらに、やはり独学で米ハーバード大学に進んだ経歴の持ち主である。その経験をふまえて説かれる独学術には重い説得力があり、なかなかの良書であった。
 また、バイオリニスト・廣津留すみれ氏の近著『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)も、同タイプの独学本だ。
 本書もしかり。東大法学部受験も司法試験も国家公務員試験も一発合格し、しかも完全独学であったという著者が、そこまでの道のりを振り返る形で綴った「独学本」なのである。
 著者の独学術の中核を成す、教科書(参考書)の「7回読み」という方法が、2つの章を割いて解説されている。この部分が本書の肝だ。著者のように実践できるかどうかはともかく、一つのやり方として参考にはなる。
 それ以外の章も、試験突破へ向けてのモチベーションの高め方など、独学者のために有益なヒントに満ちている。

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