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「ブック羅針盤」

第1回 「人生100年時代」の生き方を考える本

文/山路正晃(ジャーナリスト)

これからの時代を生きていくうえで、よき「羅針盤」となる本を、毎回テーマを決めて何冊か紹介する……
そのような企画意図の連載ブックレビューである。
 第1回は、遠からず到来すると考えられている「人生100年時代」──
「100歳まで生きることが普通になる時代」について考える本を並べてみた。

1.『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略』リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳(東洋経済新報社/1944円)

LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略

 まず、「人生100年時代」ブームを起こした本家本元の一冊を紹介しないわけにはいかない。日本語版も25万部突破のベストセラーとなっている『LIFE SHIFT』である。
本書をきっかけに、さまざまなメディアでも「人生100年時代」についての特集が組まれた。2017年秋には安倍晋三政権が、「人づくり革命」の一環として、有識者会議「人生100年時代構想会議」を政府に設置。そこには、本書の著者リンダ・グラットン氏も、日本人以外でただ一人、「有識者議員」に名を連ねている。
本書の「日本語版への序文」には、次のような一節がある。
「国連の推計によれば、2050年までに、日本の100歳以上人口は100万人を突破する見込みだ」
「2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される。いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがよい」
要するに、100歳を超えて生きることは、いまはまだ稀な長寿だが、半世紀後には稀でなくなり、一世紀後にはあたりまえになるのだ。そのような時代の到来を見据え、いまの我々がどう備えるべきかを提言したのが本書である。
著者の一人、グラットン氏は世界的なビジネス思想家で、英ロンドン・ビジネススクールの教授。氏は、やはりベストセラーとなった前著『ワーク・シフト』(邦訳2012年刊)で、2025年までに起きる働き方の激変を予測した。本書ではさらに射程を広げ、生き方そのものの激変を予測している。
「人生100年時代」には、働き方や教育のあり方など、ライフスタイルのあらゆる面に革命的変化が起きる。たとえば、60代で仕事をリタイアする時代は終わり、人は80代まで現役で働くようになる(年金等で暮らす期間が後ろに延びるため、多くの人がそうせざるを得なくなる)。
また、「教育→仕事→引退」という「3ステージの人生」はもう成り立たなくなり、〝60代で引退後に再び学校に入り、その時代にふさわしい教育を受けてから再就職する〟などという「マルチステージの人生」が普通になるという。
「日本では、長寿化の負の側面が話題にされがちだ。この変化を恩恵ではなく、厄災とみなす論調が目立つ」と、著者たちは指摘する。後述するように、長寿化の「厄災」としての側面に焦点を当てた類書も、日本には登場している。
しかし、本書は一貫して、「人生100年時代」の明るい側面に目を向ける。
たとえば、「AI(人工知能)雇用破壊論」に言及した箇所では、「ロボットに雇用が奪われることを心配するより、ロボットが労働力人口の減少を補い、経済生産と生産性と生活水準を保ってくれることを歓迎すべきだろう」と述べている。
そのような楽観に立ったうえで、著者たちは長寿化の「恩恵」を最大化する方途を、教育・生涯設計・資金計画・余暇の過ごし方など、さまざまな側面から探っている。
「日本語版への序文」に限らず、本文でも、著者たちは随所で日本に言及している。それはもちろん、日本が長寿化のトップランナーであるからだ。
「人生100年時代」は〝人類未体験ゾーン〟だから、ロールモデル(手本)はどこにもない。我が国は、今後初めてそのロールモデルになり得る位置にいる。その意味で、これは日本でこそもっと読まれるべき書だ。
 なお、本書は「ビジネス書大賞2017」の準大賞、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2017」の総合グランプリに輝いた。ビジネスパーソンならずとも、今後の生き方について大きな示唆を得られる良書である。

2.「バラ色の未来」と「灰色の未来」 対照的な2冊の類書

一〇〇歳時代の人生マネジメント 長生きのリスクに備える
女50歳からの100歳人生の生き方

『LIFE SHIFT』がベストセラーになったことを受け、昨年(2017年)来、日本では「人生100年時代の生き方」をテーマとした書籍が続々と刊行されている。ここでは、その中から2冊を選んで紹介しよう。
一つは、小島貴子著『女50歳からの100歳人生の生き方』(さくら舎/1512円)。
書名のとおり、中高年の女性読者に対象を絞った内容である。著者は東洋大学准教授で、キャリアカウンセラー。
もう一つは、石田淳著『一〇〇歳時代の人生マネジメント――長生きのリスクに備える』(祥伝社新書/842円)。著者は「行動科学マネジメント研究所」の所長だ。これはどちらかといえば男性向けの内容で、取り上げられたエピソード等も中高年男性のものが多い。
 女性向けと(主に)男性向けのこの2冊、内容も対照的だ。前者が終始ポジティブで、「人生100年時代」がもたらす「恩恵」の面に光を当てているのに対し、後者は「厄災」としての側面、「長生きのリスク」の側面にもっぱら目を向けているのだ。
 たとえば、『女50歳からの100歳人生の生き方』の帯の惹句は、「いまや100歳人生が現実に! どう楽しく生きるか! 50歳で生き方をリセット、自分が主役の人生を!」という、なんとも明るいものだ。
 一方、『一〇〇歳時代の人生マネジメント』の帯には、次のような暗い言葉が並んでいる。
「あなたは、自分が長生きするという喜ばしい理由によって、想像を絶する苦しみを味わうことになるかもしれない。すなわち、命は長らえているのに、そこにお金も健康も心のやすらぎもないという、あまりにもつらい日々が待っているのである」
 「バラ色の未来」と「灰色の未来」――同じテーマを扱いながら、これほど対照的な内容になるのも興味深い。
これは両著者のパーソナリティの差異を超えて、働くことについての日本人男女一般の捉え方の違いを反映しているのかもしれない。働くことが「苦役」であるなら、働く期間が延長される長寿化も「厄災」となるのだ。
そういえば、社会学者の古市憲寿氏が、来日したリンダ・グラットン氏との対談で、「『LIFE SHIFT』の内容は楽観的過ぎるのでは?」との意見を述べていた。男性は総じて長寿化に悲観的で、女性は総じて楽観的……そんな傾向があるのかもしれない。
評者の感想としては、『女50歳から〜』はやや楽観的過ぎ、『一〇〇歳時代の〜』はやや悲観的過ぎる。ゆえに、2冊を併読するとバランス的にちょうどよくなり、「人生100年時代」の適切な見取り図が描けそうだ。

3.『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司著(講談社現代新書/821円)

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること

 最後にもう一冊、「人生100年時代」を直接のテーマにしているわけではないが、注目すべき関連書を挙げておく。『産経新聞』論説委員による本書は、2017年6月の刊行以来、すでに44万部突破のベストセラーになっている。
 国立社会保障・人口問題研究所の〈日本の将来推計人口〉など、豊富なデータを駆使して、著者は向こう1世紀の日本の未来を年代順に予測していく。
「2020年 女性の2人に1人が50歳以上に」、「2024年 3人に1人が65歳以上の『超・高齢者大国』へ」、「2040年 自治体の半数が消滅の危機に」……などという見出しだけ見ても、何やら暗澹たる思いになってくる。
人口減少を「静かなる有事」と表現する著者の視点は、「人口減少は日本にとってむしろチャンスだ」などという楽観論とは対照的だ。本書の読後感はすこぶる苦いが、それは良薬の苦さというべきだろう。
私たちが、そして私たちの子や孫が生きていく「人生100年時代」の日本が、どのような社会になるのか? それが大雑把ながらも鳥瞰できる本であり、『LIFE SHIFT』との併読を勧めたい。

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