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「ブック羅針盤」

第2回 「働き方改革」を理解するための本

文/山路正晃(ジャーナリスト)

今年(2018年)6月29日、「労働基準法制定から70年ぶりの大改革」ともいわれる「働き方改革法」が成立。日本はいよいよ国を挙げて「働き方改革」に取り組んでいく。
関連書籍も多数刊行されているが、その中でもわかりやすく、実際に各企業が改革を進める参考にもなる本を4点選んでみた――。

1.『働き方改革――生産性とモチベーションが上がる事例20社』  小室淑恵著(毎日新聞出版/1728円)

働き方改革――生産性とモチベーションが上がる事例20社

 著者は、2006年に株式会社ワーク・ライフ・バランスを起業。以来、「働き方改革コンサルティング」を企業や組織に提供してきた。コンサルティング事例は900社以上にのぼり、大幅に残業を削減して業績は向上させるという実績を積み重ねてきた。また、自らの会社でも残業ゼロ、有給休暇消化100%で増収増益を達成しつづけているという。
本書は、そのような著者の経験をふまえた働き方改革入門だ。中心となるのは、著者が実際にコンサルティングを手がけたクライアントの事例紹介。どう改革を進め、どんな成果を上げたのかが、具体的なエピソードをちりばめて紹介されていく。
クライアントは大企業が中心だが、中小企業の事例もあり、さらには中央官庁や自治体、教育委員会などの改革事例もある。「働き方改革」があらゆる組織に適用可能であることがわかって、興味深い。
本書は第一に、実際に働き方改革を進める側にとっての優れた「実用書」である。が、それだけにとどまらない。〝働き方改革が、なぜ日本で喫緊の課題とされているのか?〟の概説書としても質が高いのだ。
第1章は、「『働き方改革』が政府の大方針になるまで」。この章の前半では、2016年からの政府と世の中の動きが概観される。そして、その中には著者自身も登場する。16年5月、官邸に招かれ、安倍晋三総理に働き方改革の重要性を解説した場面から説き起こされているのだ。
その席で著者は、〝働き方改革は企業実績を上げることにつながり、少子化対策にもなる。人口のボリュームゾーンである団塊ジュニア世代の女性たちが出産期を終えるまでには、あと数年しかない。長時間労働是正で子育て環境を整備するためにも、働き方改革を国の優先順位トップに据えて取り組むべき〟(趣意)と熱弁したという。
それから3ヶ月後、安倍政権は「働き方改革担当大臣」を新たに設置。さらに、その翌月には「働き方改革実現会議」が総理の私的諮問機関として設置された。
むろん、著者の提言だけで決まったわけではあるまい。それでも、著者は働き方改革に向け、総理の背中を押した当事者の一人ではあるのだ。
その後、労働時間の上限設定に反対する業界団体がこぞって政府にロビイングするなど、水面下の攻防があった。が、15年末に自殺した電通の新入社員・高橋まつりさんの過労死認定(16年10月)が大々的に報じられると、世論は一気に「長時間労働是正は必要」という方向に振れた。そこから、今年の「働き方改革法」成立につながっていったのだ。改革法の柱の一つは、時間外労働に罰則付きの上限規制を初めて定めたことであった。
1章の後半では、働き方改革が日本経済を守るためにも不可欠であることが、人口構造の転換という側面から解説される。
日本の「人口ボーナス期」(若者が多く、高齢者が少ない人口構造の時期)は1990年代半ばには終わっており、「人口オーナス期」(「支えられる側」が多数になり、人口構造が経済の重荷になる時期)に突入してもう20年になる。
人口ボーナス期と人口オーナス期では、「経済発展しやすい働き方」が真逆になる。人口オーナス期には、「①なるべく男女ともに働き、②なるべく短時間で働かせ、③なるべく違う条件の人材を登用する企業が勝ちます」と、著者は言う(くわしくは本書に譲る)。つまり、働き方改革における長時間労働是正やダイバーシティ(多様性)の追求は、人権への配慮でもあるが、経済発展のための戦略でもあるのだ。
 働き方改革の流れを大づかみに知りたい場合、本書の第1章だけでも読んでみるとよい。

2.『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』 青野慶久著(PHP研究所/1620円)

会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。

 グループウェア・メーカー「サイボウズ」は、世に先駆けて働き方改革に取り組み、成功させた企業として知られる。本書は、同社の創業者で現・社長の著者が、自らの取り組みをふまえて働き方改革を考えたものだ。
かつてのサイボウズは、「終電までの残業や土日出社は当たり前、ハードな働き方についていけず辞める社員が続出し、離職率は二八パーセント」という状態であったという。そこで、青野社長は全社的な改革を決意。「働く時間や場所を自分で選べるようにしたり、自由に副業をできるようにしたり」といった大胆な改革を、次々に推し進めた。「最長六年の育児・介護休暇制度」も導入。その結果、2013年までの8年間で、離職率はピーク時の7分の1に低下したという。
同社の改革が成功した理由の一つとして、青野社長の率先垂範の姿勢が挙げられる。三児の父である青野氏は、創設した育児休暇制度を自ら3回も取得した。東証一部上場企業の男性社長としては、きわめて異例のことであった。そうした本気が社員たちにも波及し、育児休暇を通じて得た社長の知見も働き方改革に活かされたのだ。
また、本書でも触れられているが、サイボウズは昨年(2017年)9月、『日本経済新聞』に「働き方改革に関するお詫び」という全面広告を出して話題となった。それは、「世間でブームになっている『働き方改革』が、じつは社員の楽しさにつながっていない」として、「私たちが伝えたかった『働き方』とは、そういうことではないのです」と、自社の〝発信力不足〟を詫びるという問題提起の広告であった。
青野氏にとっての働き方改革とは、「多様な人が楽しく働く」ための改革であり、「一○○人一○○通りの働き方が選べる会社」にすることだ。いっぽう、世の働き方改革は進め方が画一的で、一人ひとりの個性に十分目が向けられていないのではないか。また、働く楽しさの追求が乏しいのではないか……と、青野氏は言うのだ。働き方改革の先進企業が、現今のブームに疑問の一石を投じた書でもある。
 タイトルのとおり、従来の日本企業のあり方(年功序列などの「メンバーシップ型雇用」)を、「社員を我慢させる巧妙な仕組み」が埋め込まれている、と筆鋒鋭く批判する箇所も多い。その意味で、これからの企業のあり方を根源的に論じた書にもなっている。

3.『日経BPムック/まるわかり 働き方改革』  (日経BP社/980円)

まるわかり 働き方改革

 ビジネス誌ナンバーワンの読者数を誇る『日経ビジネス』の特集を再構成して掲載するなどして、働き方改革の実像に迫ったムック。写真や図、データが多用され、読みやすい。
第1章を丸ごと割いて、カリスマ経営者として名高い永守重信・日本電産会長が、同社の働き方改革に取り組む様子をルポ的に追っている。「元日以外、仕事は休まない」と公言してきたハードワーカーの永守氏が、16年に「2020年度までに残業ゼロを実現する」と宣言する〝変心〟を遂げたのはなぜか? 現場の声などを多角的に捉え、読ませる内容になっている。
また、「やってはいけない働き方改革」の章では、ブームに便乗して行われる「トンデモ働き方改革」の例を取り上げている。類書にはあまり見られない切り口で、面白い。
 さらに、第3章(全4章立て)では、働き方改革が進むなかで起きた副業推進の流れをふまえ、副業のプラス面/マイナス面を探っている。

4.『社労士事務所に学ぶ 中小企業ができる「働き方改革」』  堀下和紀著(労働新聞社/972円)

社労士事務所に学ぶ 中小企業ができる「働き方改革」

 マスメディアの「働き方改革」報道は、とかく大企業の話に偏りがちだ。しかし、「働き方改革法」は当然ながら中小企業も対象にしている。また、日本企業の99%以上が中小企業なのだから、働き方改革の成否は中小企業の取り組みにかかっているのだ。
本書は、社会保険労務士事務所を営む著者が、自らが行った働き方改革を詳述したものである。
3年前まで、著者の経営する社労士事務所は、長時間労働が蔓延し、定着率も悪く、「はっきり言ってブラック企業」だったという。そこから一念発起して働き方改革に取り組み、3年後のいま、従業員数は3倍になり、残業も大幅に減り、利益も売上も増大。本書はその成功の道のりを綴ったものだが、そこに至るまでの失敗も赤裸々に明かされているため、自慢話の臭味はなく、楽しく読める。
〝中小企業はオーナー企業が多いので、社長の決意さえあれば迅速に働き方改革が実行できる〟と著者は言う。その点で、中小企業は改革を進めるうえで大きなアドバンテージを持っているのだ。
社労士事務所の事例ではあるが、著者が行った働き方改革は業務のクラウド化・IT化と女性社員活躍の推進(子連れ出勤制度・在宅勤務制度の導入など)を核としたものであり、その多くは他業種にも応用可能だろう。
 本書は、中小企業に的を絞った働き方改革入門として、独自の価値を持っている。

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