国境離島法 施行から1年 挑む長崎の島(上)

公明新聞:2018年4月12日(木)付

島外から帰省した大学生を接客するポーさん。カフェは地域住民や島外からの観光客らの憩いの場となっている島外から帰省した大学生を接客するポーさん(左)。カフェは地域住民や島外からの観光客らの憩いの場となっている

地域経済の振興
「まちに活気が出てきた」
交付金で事業や雇用を拡大

人口減少が進む国境離島地域の保全をめざす「有人国境離島法」が2017年4月に施行され、1年が経過した。内閣府は同法に基づき、国境離島を抱える自治体に対し、「特定有人国境離島地域社会維持推進交付金」を交付。島民の交通運賃値下げや雇用機会の拡充、滞在型観光の促進などを支援している。交付金の対象となっている全国8都道県71島のうち、約56%に当たる40島を有する長崎県では、市町と連携して地域経済や観光業の活性化に取り組んでいる。

11の有人離島と52の無人島から成る長崎県五島市。その有人離島の一つ、福江島の五島市富江町を訪ねた。島内で2番目に人口が多い地域(4578人=3月末現在)だが、65歳以上が44%を占め、高齢化が深刻だ。商店街にはシャッターを下ろした店が目立つ。

そんな中で、世代を超え、町内外から多くの人が集う場所があった。昨年12月にオープンしたカフェ「te to ba(手と場)」だ。「まちに活気が出てきた」。カフェを経営するポー・麻梨絵さん(30)は、こう実感を語る。

祖父母や両親の出身地である五島に“孫ターン”で東京から移住してきたポーさん。外国語指導助手(ALT)として五島市内の高校で勤務する米国人の夫と結婚後、「富江は魅力ある町。にぎわいを取り戻したい」と考え、同じ孫ターンで大阪から移住してきた平松愛希さん(30)と共にカフェの開設を決めた。有人国境離島法に基づく交付金を市に申請し、古民家の改修費や開店資金、従業員の雇用に伴う人件費などに活用したという。

開店以来、憩いの場として利用する町民でにぎわい、島外から観光客や帰省客も訪れ、店は活気に満ちている。カフェに来ていた地元の住民は「町の子どもや若い人たちと話せて楽しい」と喜んでいた。

一方、新上五島町で「五島うどん」を製造する創業32年の中本製麺は昨年11月、中本茂代表取締役(63)が「五島うどんの生産を上五島(新上五島町)だけでなく、下五島(五島市)にも広げたい」と、交付金を活用し、五島市吉久木町に生産拠点を整備。島外への販路や島内雇用を拡大させた。工場に飲食店舗を併設し、飲食や調理体験ができる観光スポットとして注目を集めている。

長崎県全体の人口の約1割を占める国境離島地域。進学や就職などで高校生の約9割が島外に転出するなど、若者の島外流出が課題となっている。県は国境離島法を活用し、島内企業の事業や雇用の拡大のほか、創業に対して支援している。初年度となる2017年度は、県で358人の雇用拡大を実現させた。

また、今年度、県は交付金を活用した取り組みとして「長崎しま雇用・しま人材確保促進事業」を新たに導入。都市部で国境離島地域の企業セミナーを開催するなどして、島で働く人材を確保する狙いだ。県地域づくり推進課の宮本浩次郎課長補佐は「若者の島内就職や移住者を増やしていきたい」としている。

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