主張3・11風化への抵 抗復興と支援と備えのために

公明新聞:2017年11月27日(月)付

濁流が家々をのみ込んでいく。水素爆発した原発からは白煙が立ち昇っていた……。

あの日あの時、テレビで見た凄まじい光景である。誰しもが息をのみ、そして心に誓ったはずだ。「忘れない」「支援し続けねば」と。

だが、あれから6年8カ月余。東日本大震災の風化が急速に進んでいる。

象徴的な出来事が今月、被災地で相次いであった。

一つは、国の補助と寄付を頼りに岩手県陸前高田市で続けられてきた写真などの「思い出の品」を持ち主や家族に返す事業が、財源不足で終了したこと。もう一つは、宮城県内で震災の伝承活動に取り組んでいる人々が手を取り合い、広域のネットワーク組織を立ち上げたこと。いずれも、背景に風化があったことは言うまでもない。

もとより被災地は今も「災後」のただ中にある。避難者は全国に8万人を数え、このうち半数近くが7度目の正月を仮設住宅で迎える。震災関連死も増え続け、福島ではついに直接死を超えてしまった。

ある意味、震災直後よりも過酷な現実も生まれている。個人・地域間で広がる復興格差だ。早々に家を再建できた人と仮設に残らざるを得ない人、仙台市など大都市と周辺の小さな漁村……。“取り残された人と地域”に深刻な疎外感が襲い掛かっている。

この現状を前にして、無関心を決め込んでいるわけには到底いかない。あの時に誓った“寄り添いの精神”を今一度思い起こすことが必要だ。

先頭に立つべきは、もちろん政治であろう。先の衆院選で「復興」がほとんど語られず、「政策風化」との言葉が被災地に飛び交ったことをどれだけの政治家が知っているだろうか。猛省してほしい。

本紙も含め、震災報道の減少に甘んじているメディアの責任も重い。「被災地の今」を全国に伝えゆく使命の重さを改めて噛みしめたい。

そして、私とあなただ。被災地に足を運べずとも、今いる場所でやれることはある。

例えば、家庭や職場や地域で3.11を話し合う。それだけでも風化に抗う強い力となって、支援継続と復興加速を促し、南海トラフ地震など“次の災害”への最大の備えともなることを自覚したい。

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