激動の時代の政党像

公明新聞:2017年11月8日(水)付

竹中治堅・政策研究大学院大学教授に聞く

先の衆院選では、野党の理念なき離合集散によって、政党のあり方が改めて問われた。政党が果たすべき役割や責任とは何なのか。激動する時代における政党像や政党政治について、竹中治堅・政策研究大学院大学教授に聞いた。

練り上げた政策が生命線

民進党の分裂 新党の公約変更は無責任

――衆院選の公示前後の民進党分裂騒動で、政党のあり方が大きく問われた。

竹中治堅教授 これまでも民主党・民進党は組織としてのまとまりを欠いてきたが、それが続いている感じがする。政権はそんな簡単に取れない。安倍首相が「(プロ野球の)巨人が負けたら名前を変えるのか。練習するんです」と言ったが、その通りだ。

民進党の課題は、地方組織を強くし、政策を鍛え上げることだった。2009年の政権交代前は政策を結構勉強していたし、地方組織は小沢一郎氏らが強化していた。下野後は、組織を強化する人がおらず、政策も昔に比べて勉強しなくなった。今回の希望の党の結党劇はまるで一夜漬けの勉強で政権を取るような話だ。個人レベルでそうやって試験対策することは可能なこともあるだろうが、政権奪取は別である。それでは政権は取れない。

――希望の党で当選した議員は民進党を解党しろといい、選挙後も同じようなことを繰り返しているが。

竹中 最初は小池百合子代表に頼り、うまくいかなくなると小池代表を批判し、選挙前の希望の党の政策と違う主張を始めている。そもそも、自分自身の責任をどう考えているのか。希望の党に移った人たちが、いろいろ言うことに違和感を覚える。

どういう会社に入るか、その会社が何をやっているかを考えてから入るべきだ。そういうこともせず、入ってからその会社がうまくいかないといって会社を責めるのは、見当違いである。あくまでも自分の責任だと思う。

政党は練り上げた政策が生命線だ。しかし、希望の党は消費税の凍結やベーシックインカム(最低所得保障制度)など生煮えの政策を出してきた。特にひどいのが安全保障政策だ。選挙前は現実路線を掲げたはずが、選挙後は「民進党と同じ」に変わった。われわれ国民と真摯に、誠実に向かい合っているのかと言いたくなる。

党組織は持続性が必要

中央と地方の結び付き強めよ

衆院選を前に民進党が分裂して新党が相次いで誕生。党首討論では、新党が生煮えの政策を主張した=10月8日 都内の日本記者クラブ――政党に本来、求められる役割とは。

竹中 選挙の度に政党名がコロコロ変わらない持続性を求められる。そのためには、党としての地方組織がしっかりしていることが重要だ。地方組織とそこに所属する党員や支持者をつくる。公明党には盤石な地方組織があるし、自民党にも地方の商店街、青年会議所、農協といった支持組織があり、その組織との結び付きを地方議員が取り持っているから、組織としてまとまっている。

民進党の一連の解体劇が示しているのは、20年以上、存続した政党なのに組織が弱かったことだ。個人レベルでなく、党としての地方組織がしっかりしていて地方組織と国会議員の結び付きが強ければ、今のような姿にはなっていなかったはずだ。地方との結び付きが弱いから、国会議員だけで解党するようなことができてしまう。こういう組織は持続せず、政策の継続性もあまり期待できない。これは課題だ。

――政党にはガバナンス(統治力)も必要だ。

竹中 今回の民進党の場合はガバナンス以前の問題だ。「決めたことを守りましょう」という話ではなく、組織を壊すことを決めただけだ。政党に必要な要素は、国民の声を汲み上げてそれをまとめる役割だ。無所属議員だけでまとめるのは大変だから、政党に所属してまとめる。国民の意見を政策として練り上げる。政策実現のため政治指導者を養成する。そして立法府と行政府をつなぐ。さらに、所属する議員の立ち位置を有権者に分かりやすく伝える役割も持っている。

議院内閣制の下では、政党が中心になって内閣を作るから、内閣としての一体性を政党が担保する。さらに、政党は持続するので、長期的視野に立った政策形成が担保されることになる。

政党組織を長期的に維持することが大切な一方で、政党名を簡単に変えないことが大事だ。例えて言えば、デパートはコロコロ名前を変えるだろうか。有権者が戸惑うことになるし、党勢も損なうことになる。

民進党に話を戻すと、民主党政権で何が良くて何が悪かったかを明確に総括しないままこうなってしまった。彼らには、それをうまく伝えるパブリシティー(広報宣伝)する能力もない。自分たちをきちんと評価できていたら、前回総選挙からの3年間をもう少し有益に使えたはずだし、新党が出てきただけで浮き足立って解党を決議する必要もなかっただろう。

「将来への投資」さらに

教育・研究分野に重点配分を 公明党 時代とともに存在感を増す

――衆院選で国民の信を得た自公政権に求められることとは。

竹中 当面は、北朝鮮問題への対応と経済再生、財政再建に取り組む必要がある。

教育無償化の財源に消費税の増収分を充てると主張しているが、消費増税後ももともと財政赤字は続くことが見込まれていた。財源は結局、借金である。いつまでも借金を続けると国が傾くので財政規律についてもっと考えてもらいたい。また、今の政府予算では毎年の社会保障費が増大していることもあり、将来への投資が不十分だ。他の予算を削ってもその分を社会保障に充ててしまう傾向がある。もっと、教育や研究など日本の将来に投資しないと国の未来はないと思う。自公政権は真剣に取り組んでいってもらいたい。

昔とは異なり、「人生100年時代」を迎えた今の65歳はあらゆる面で若い。まずは「65歳は高齢者」という定義を変えるところから議論を始めてはどうか。

――公明党の役割は。

竹中 責任を持って長期的な視野に立った政策を発信してもらいたい。

例えば、現行制度では、課税所得が1800万円超の場合は税率が50%、4000万円超だと55%だが、この間の3000万円超を55%にして5000万円超を60%の税率に見直す。また、金融資産は株式譲渡益や利子・配当所得の税率20%の課税となっているが、これも累進課税にする。こうした制度の見直しを大胆に検討してみてはどうか。

公明党は政策にさらに磨きをかけて、政府・与党の中でもっと暴れた方がいい。

――公明党は17日、結党53周年を迎える。

竹中 今や、公明党は数少ない老舗政党の一つとなっている。戦後の日本の変化を象徴するように、時代とともに存在感を増してきた政党だと思う。それだけの歴史を持つ責任ある政党だけに、これからの若い人たちのために持続可能な国づくりを考える党であってほしい。

――世界的にポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭しているが。

竹中 日本は比較的に目立たない方であるが、国民の既成政党に対する不満が高まっていることは確かだ。どう歯止めをかけるかの解はない。

無党派層が増えている背景には、世の中の価値が多元化したことがある。また、政党が高齢者の方を重んじる「シルバー民主主義」的な政策を打ち出すから、選挙に行かない人たちがしらけて特定の政党を支持しない現象もあると思う。

もう一つは、グローバリゼーションの動きである。国家がコントロールできない現象に近いから、必然的に政党も政策でグローバル化の流れをコントロールできなくなってきている。このため、政党を支持しても仕方ないという風潮が強まっているのではないか。

――10、20代が与党を支持する傾向をどう見るか。

竹中 若手が安全保障政策に対して違和感を覚えなくなっていることがあるだろう。世代的にいわゆる「55年体制」的なもの、あるいは敗戦のトラウマから抜け出した人が増えている。特に今の若者は旧社会党が弱体化してから育ったことも大きい。こうした点で離合集散を繰り返し落ち着きのない野党より与党の方が頼りになると見えるのではないか。

さらにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の対応もある。特に自民党のネット対応は早かった。今後、SNS対策は無党派対策として重要だ。

たけなか・はるかた

1971年生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。スタンフォード大学政治学部博士課程修了、Ph.D.(政治学)。スタンフォード大学客員研究員などを経て現職。著書に「参議院とは何か 1947~2010」。今年2月には「二つの政権交代」(編著)を刊行。

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