増える所有者不明の土地

公明新聞:2017年9月6日(水)付

全国で推計410万ヘクタール
登記なく 相続人の把握困難
街づくりや防災の妨げに

相続などの際に登記が長年行われず、所有者の特定が難しくなっている土地が全国的に広がっている。こうした所有者不明の土地は自治体の街づくりや防災の妨げとなるケースもある。国も対策の検討を始めている。

法務省は6月、所有者が不明の土地に関する初の実態調査を全国10カ所で実施したところ、最後の登記から50年以上経過している土地が都市部で6.6%、地方では26.6%に上ると公表した。

同月には民間の有識者らでつくる「所有者不明土地問題研究会」も、所有者不明の土地が全国で410万ヘクタールに達するとの推計を発表。団塊の世代が80歳を超える2030年以降、「大量の相続が発生する」として、「さらに問題が深刻になっていく」と警鐘を鳴らしている。

そもそも、登記簿上に土地などの所有権を記載する登記は「権利」であり、「義務」ではない。売買などの機会がなければ、相続登記をしなくても生活に支障が出ないケースは珍しくない。

土地所有者が不明になる例加えて、人口減少で人の住まない地域が増え、地方を中心に土地の資産価値は下落傾向にある。登記にかかる登録免許税などの負担や手間を考えると敬遠されがちだ。

しかし、相続登記がされずに放置され続ければ、相続人がねずみ算的に増え、所有者の把握は難しくなるばかりだ。

「所有者不明の土地は見た目で判断ができない。そのため、公共事業や土地境界の確認の際に初めて表面化し、深刻な問題となるケースが多い」と語るのは、日本土地家屋調査士会連合会の柳澤尚幸・専務理事だ。

不動産の状況を正確に登記に反映させるための調査などを行う土地家屋調査士は、所有者不明の土地の調査依頼を直接受けることは少ないが、隣の土地の所有者が不明の場合、土地の境界確認などの調査業務に多大な支障が出るという。

柳澤氏も、そうした事例にいくつも携わったことがあるという。例えば、公共事業で、ある自治体が河川を整備するための用地買収を進めたところ、相続登記がされていない土地の相続人が海外へ転出。その行方の捜索と交渉に多くの労力を割かれ、整備事業が当初の計画より1年近く遅れた。

この他、東日本大震災の高台移転事業でも、土地の相続人と連絡が取れないケースが相次ぎ、被災地の復興の妨げになったことは記憶に新しい。

柳澤氏は、「それぞれの土地は基本的に個人の持ち物だ。しかし、土地は公共性の高い財産でもあり、所有者が不明になってしまった場合、その社会的な損失は大きい。多くの国民に関心を高めてもらいたい」と強調する。

政府、本格調査へ

本格調査の実施へ政府も対応に乗り出している。法務省は、来年度予算案の概算要求で、長期間登記が変更されていない土地の所有者を割り出す調査などの費用として約24億円を計上している。

6月に政府が閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)には、所有者が分からない土地を、公共目的などに利用できる仕組み作りを検討すると明記。来年の通常国会で必要な立法措置もめざす。

公明党も登記を促すため、登録免許税の減免などを主張。財産権の保障と土地の公共的利用を調和させる観点から、所有者不明の土地問題への対策を議論していく予定だ。

丁寧な窓口案内がカギ

京都・精華町など

所有者不明の土地を増やさないためには、相続などの際に登記を促す取り組みが求められる。参考になるのは、京都府精華町の事例だ。

同町では、死亡届を総合窓口課で受け付けた際、農地や森林を相続する際に義務付けられている届け出など、必要となる諸手続きを一覧で示した資料を相続人に送付。さらに、手続きのため相続人が来庁した際は、固定資産税係が総合窓口まで出向き、法務局などで相続手続きが必要となることを説明し、相続登記の際に提出する書類のリストを渡している。

こうした対面による丁寧な説明により、かつては農地届け出の件数は年間2~3件だったが、取り組みを始めた2011年以降は年間20件程度に増加。相続手続きに伴って増えたと思われる。同町総合窓口課は「相続などの登記数の推移は掌握できていないが、何らかの後押しにつながっているのではないか」と話す。

新潟県長岡市でも、「市役所なんでも窓口」で、死亡届を受理した際、相続登記を含む手続きについて一覧表で案内している。相続した森林の届け出件数は、こうした取り組み以前の平均件数の1.37倍に増加しており、相続の手続き漏れの防止に役立っている。

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