激増するネット通販の影響

公明新聞:2017年4月8日(土)付

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮一慶氏

ネット通販(消費者向け電子商取引)の市場規模が10年間で約4倍に急拡大している。消費者の利便性が著しく向上する一方で、宅配最大手のヤマト運輸がサービス縮小に追い込まれるなど物流・流通業界への反動も大きい。ネット通販の現状を紹介するとともに、株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEOの小宮一慶氏に見解を聞いた。

市場は右肩上がり

年1兆円ペースで規模拡大物販の3割はスマホを経由

インターネットが全国に普及した今、アマゾンや楽天市場、ゾゾタウンといった通販サイトの利用は、多くの人にとって日常的なものになりつつある。

消費者向け電子商取引の市場規模(国内)経済産業省の調査によると、国内における消費者向け電子商取引の市場規模は毎年1兆円ペースで右肩上がりに拡大。2015年は、10年前の約4倍となる13兆7746億円に達した。

内訳は、衣類や生活家電、食品などの物販が7兆2398億円(52.6%)、旅行や飲食店予約、チケット販売などのサービス分野が4兆9014億円(35.6%)、オンラインゲームや電子書籍などのデジタルコンテンツが1兆6334億円(11.9%)となっており、対象産業も幅広い。

全ての世代が利用

ネット通販は、価格や商品の比較が容易で、パソコンなどのネット端末からいつでも注文できる上、自宅まで届けてくれるなど消費者にとって非常に利便性が高い。当初は買える商品が限られていたが、今では品ぞろえが充実し、多くのものを買うことができるようになった。総務省の調査によれば、全ての世代でネット通販の利用率が高まっており、シニア世代の利用率も大きく上昇している。

急成長の要因の一つは、スマートフォンの普及だ。前述の物販7兆2398億円のうち、スマートフォン経由の購入は3割近くに上っている。大手通販サイトでは、売り上げの6割以上がスマートフォン経由というところもある。特に衣類や医薬品での比率が高い。

物流の進化も大きい。注文の翌日、特定エリアなら当日に届くサービスなど、配送スピードは年々加速しており、競争も激しさを増している。15年11月には、受注から1時間以内に商品を届けるアマゾンジャパンの「プライムナウ」(一部地域)も登場した。また、好きな時間に便利な場所で受け取りたいというニーズから、コンビニやロッカーを利用するなど受け取り方法も多様化している。

決済代行が便利に

事業者側の参入のハードルも下がっている。IT技術を活用した新しい金融サービス「フィンテック」によって、決済手数料が従来よりも安価で、かつ導入が容易なオンライン決済代行サービスが広がっている。また、飲食店などでは、スマートフォンやタブレットで販売情報を管理できるアプリケーションの利用が徐々に広まっており、ネット予約への対応を後押ししている。

国境越える取引

伸びる訪日客のリピート注文。海外開拓の有力手段

「爆買い」後に購入

3国間の国境を越える取引規模ネット通販の市場規模は世界でも拡大しており、15年は1兆6700億ドルと対前年比で25.1%伸びた。特に規模が大きい中国、米国と、日本の3国間における国境を越えたネット通販の取引規模を見ると、中国の日本からの購入額は7956億円で、対前年比31.2%の大幅な伸びを示している。

その要因として挙げられているのが、「爆買い」で話題になった訪日中国人客のリピート購入だ。日本滞在中に購入した日用品や自分のための商品を帰国後、現地から越境取引で入手していることが考えられる。

越境取引は今後も拡大し、日本と米国の消費は19年に約1.5倍、中国は約3倍になると予測されている。言語や法規制、物流など、国内とは別の制約や課題はあるが、海外市場開拓の有力な手段になっていくことが期待される。

悲鳴上げる物流

一方、日本国内では課題も浮かび上がっている。

インターネットで売買するといっても、物販については、物理的に配送する機能が不可欠だ。その物流が悲鳴を上げている。国土交通省によると、15年度の宅配便の取扱個数は37億個に達し、5年前に比べて約5億個増えた。ネット通販の急速な拡大が主な要因といわれている。ヤマト運輸は3月、宅配総量の制限や時間帯指定サービスの一部廃止などを労働組合と合意。アマゾンの当日配送サービスの受託についても、撤退する方針を固めたと報道されている。

カード決済についても、不正アクセスなどでクレジットカード情報の漏えいが多発しており、情報セキュリティー対策が急務だ。

高度な物流システムが支え

将来は人工知能(AI)が発注する時代に 中国では代行サービス

――ネット通販が急拡大している背景は。

小宮一慶代表取締役 共働き世帯や高齢者が増える中、スマートフォンがあれば店舗に行かなくても買い物ができて、指定した時間帯に自宅まで届けてくれるメリットは大きい。日本には生鮮品まで運べる高度な物流システムと宅配サービスがあり、物販分野の幅広い商品を取り扱うことができる。

――その物流が限界に達しています。

小宮 対策としては、コンビニ受け取りや初回配達時の受け取りにインセンティブ(誘引)を付けて再配達を減らしたり、高速道路を走るトレーラーを複数台連結して必要なドライバー数を減らすことなどが考えられる。しばらく時間はかかるが、自動運転が実用化されれば、たいぶ負担は軽減されるのではないか。

――企業の戦略はどうあるべきですか。

小宮 今後も間違いなく伸びるネット通販に対応しない手はない。ほとんどのビジネスで導入が可能だ。コスト面などで不安のある中小企業でも、例えば楽天市場のオンラインモールを活用すれば、出店するのに自前のシステムは必要ない。業務的に必ずしも向かない場合でも、ウェブサイトで商品やサービスを紹介し、電話で問い合わせを受けるといった中間的な形でネットを活用することはできる。

――小売店で商品を見て、ネット通販で購入する「ショールーミング」も増えています。実店舗が生き残るには、どうすればいいでしょう。

小宮 充実したアフターサービスなどの差別化が必要だ。人が対面でじっくり説明するなど、きめ細かな対応には価値がある。ネットの方が安くて利便性が高いとなると、少々価格が高くても買ってもらえるような質やその他の要素で勝負するしかない。自分の好みを良く知っていて、言わなくても対応してくれる店があれば、そこを使おうと思うだろう。

――個人間の商取引がトレンドになっています。

小宮 ある意味で究極のシェア・エコノミー(共有型経済)だ。消費は減らないが、生産は減る可能性はある。製造業への影響は相当あるのではないか。無駄がなくなるのはいいことだが、広がりすぎると経済が縮小する懸念はある。

――中国から日本・米国への国境を越える取引が急激に伸びています。

小宮 中国人の旺盛な購買意欲には幾つか背景がある。その一つが、中国政府が農村対策として力を入れているネット通販の代行サービスだ。事業者と組んで各農村に拠点を設置し、住民のネット注文を代行、商品を拠点に届けるというもので、そのための道路整備も進められている。

――越境取引を海外市場開拓につなげるには。

小宮 「爆買い」はほぼ収束したが、所有よりも特別な体験やサービスを重視する「コト消費」への変化を踏まえ、訪日客に温泉や百貨店などをアピールすることも一つの方法だ。観光を入り口に越境取引を後押しすることもできる。

――将来、買い物のあり方はどうなるでしょうか。

小宮 すでに実用化されているが、ボタンを押すだけで登録された日用品を注文できるサービスがある。将来は、AI(人工知能)が冷蔵庫のミルク残量などの備蓄状況まで判断して自動発注する時代が来るだろう。

こみや・かずよし

1957年生まれ。京都大学法学部卒。東京銀行、岡本アソシエイツなどを経て独立し、現職。名古屋大学客員教授。「ビジネスマンのための『発見力』養成講座」など、著書は100冊を超える。

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