熊本地震11カ月

公明新聞:2017年3月14日(火)付

早朝、宮地駅から肥後大津駅行きの臨時バスに乗車する高校生ら=熊本・阿蘇市早朝、宮地駅から肥後大津駅行きの臨時バスに乗車する高校生ら=熊本・阿蘇市

「通勤・通学、不便でつらい」
国道57号、 JR豊肥本線 交通インフラの復旧急務

熊本地震によって阿蘇大橋や国道57号などの重要な交通インフラが崩壊した熊本県阿蘇地域。発災から11カ月が経過した今も復旧のメドが立っておらず、JR豊肥本線も一部区間(肥後大津駅~阿蘇駅)で運休が続く。今なお不便な生活を強いられる阿蘇市民の暮らしを追った。=熊本地震取材班

熊本・阿蘇市

夜明け前の午前4時50分ごろ。静まりかえったJR豊肥本線・宮地駅(熊本県阿蘇市)に、通学用のリュックを背負った高校生たちが集まってきた。保護者の車から部活用具などの大きな荷物を担ぎ出している生徒の姿も目立つ。

間もなく、JR九州が県と連携して運行する臨時バス(宮地駅~肥後大津駅)のエンジンが始動し、大津町や熊本市内などの高校・専門学校に通学する生徒たちが乗り込んでいく。

山間部・阿蘇の朝はいまだ冷え込みが厳しく、吐く息は白い。「薄暗い時間帯の登下校が心配で毎日、駅まで送迎している。子どもたちも大変だが、親も体力的につらい」。保護者の一人が胸の内をこぼした。



午前5時が始発の臨時バスは宮地、肥後大津両駅をそれぞれ出発。遠距離通学の生徒らが対象となるため、登下校の時間帯しか運行していないのが特徴だ。

阿蘇市教育委員会によると、市内から約150人の生徒が大津町や熊本市内に通学しているという。さらに臨時バスは、通行できない国道57号の代わりに県道北外輪山大津線(通称・ミルクロード)を使って迂回するため、「電車より倍近くの通学時間がかかる生徒もいるはず」と推測する。

事実、大津町の学校に通う高校2年生の息子を持つ40代男性(自営業)は、「発災前より1時間も早起きしないと学校に間に合わない。乗り遅れたら私たち親が片道1時間以上かけて送り届けるしかない」と大変さを語る。「中には大津町の高校から地元の高校に転入する生徒や、市外の希望校への進学を断念する中学生もいる」と付け加えた。



交通事情の悪化は、働き盛りの世代や高齢者の生活にも大きな影を落とす。阿蘇市内で民生委員を務める吉岡なおみさん(69)は「高齢者の中には熊本市内の病院への通院が困難になり、引っ越しを余儀なくされるケースもある」と指摘。さらに前述の40代男性も「車の事故や故障でミルクロードが渋滞すれば、市外の顧客との取引に影響が出る。早急に国道57号の復旧とJR豊肥本線の全線開通を実現してほしい」と話す。

国土交通省九州地方整備局は昨年11月、国道57号の復旧事業として現ルートの北側を通す新ルートの開設工事に着手。今年1月からは現ルート復旧の可否に関する地質調査なども行っているが、完成や復旧のメドは立っていない。

熊本地震から11カ月。阿蘇大橋の代替ルートも含めた交通インフラの復旧工事が急ピッチで進められているものの、一日も早い交通事情の改善へ、さらなる加速が求められている。

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