天皇の退位等についての公明党の見解

公明新聞:2017年2月21日(火)付

一、はじめに

昨年8月8日、陛下は国民に向けて「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」をお述べになられた。

その冒頭に「即位以来、私は国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました」と述べられ、今日に至るまでのご自身の思いをお話しになられた。

陛下のおことばを重く受け止め、全国民の代表である議員で組織された国会は、「国民の総意」を見つけ出すべく努力をしなければならない。

二、基本的な考え方

象徴天皇制の下での「皇位継承」のあり方を検討するにあたって、以下の三点について、踏まえる必要がある。

(一)日本国憲法下での象徴天皇制の意義

国民主権の下での象徴天皇制(憲法第1条)、歴史的事実に基づいた世襲制(同第2条)を前提として、天皇の公的行為(象徴としての地位に基づく行為)をどう位置づけるか。

天皇の公的行為は、憲法上の明文の根拠はないが、その時代時代の天皇の思いが国民の期待とも相まって形づくられるものと理解される。とくに今上陛下の長年の献身的なご活動を通じて、国民は、陛下が「国民統合の象徴」としてきわめて大きな役割を果たしておられると受け止めており、公的行為は国民と共にある象徴天皇の重要な行為と考えられる。

(二)国政関与禁止

憲法第4条1項では、「天皇は、国政に関する権能を有しない」と規定している。この天皇の国政関与の禁止は、天皇に政治上の責任問題の生ずるおそれをなくすことによって、象徴天皇制を安定的に維持するという意味でも重要である。

皇位の継承という国政の重要事を、直接、天皇の意思に係らしめることは困難といわねばならない。

(三)天皇、皇室制度の安定的な維持

皇室典範第4条は、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」と規定し、天皇の終身在位制を定めている。退位の規定を設けなかった理由として、(1)権威の二分化(2)退位の強制(3)恣意的退位の可能性など、天皇の地位の安定に影響を及ぼすおそれを排除するためとされている。

したがって、「退位」を検討するにあたっても、こうした弊害が生じないような仕組みでなければならない。

三、終身在位制について

天皇、皇室制度の安定的な維持をはかるためには、天皇の終身在位制という基本は維持されるべきではないかと考える。

しかしながら、現代の高齢社会にあって、日本国憲法における象徴天皇制の下で、先に述べたような弊害の生じるおそれのない退位については、国民合意の上で許容されるものと考えられる。

退位を認めるべきでないという立場からは、公務の負担軽減等をさらに進めるべきとの意見があるが、

(1)公務の縮小はこれまでも相当なされてきており、限界がある。

(2)臨時代行(憲法第4条2項)や摂政(同第5条)は制度上、国事行為の法的代理であり、一方で公的行為は天皇の象徴としての地位に基づく行為であって、天皇以外の方が事実上代行しても象徴としての行為とはならない。

また、陛下のおことばを受け、多くの国民は、退位をやむを得ないものと受け止めており、今上陛下の退位は認められるべきではないかと考える。

四、退位の検討

(一)将来の全ての天皇を対象とすることについて

将来の全ての天皇を対象とする退位制度にしようとすると、皇室典範の改正が必要となるが、将来にわたる退位の要件を、一般的に規定することはきわめて困難である。

(1)皇位の継承について、「天皇の退位の意思」や三権の長や皇族によって構成される「皇室会議の議を経ること」を要件とすることは、天皇の国政関与の禁止や三権分立の原則との関係から憲法上の疑義があるといわざるを得ない。

(2)また天皇の意思にかかわらず、天皇の年齢等によって退位を認めるのは、退位の強制の弊害が生じることも懸念される。

(二)一代限りの「皇位継承に関する特例法」

以上の理由から、今上陛下一代限りの「皇位継承に関する特例法」とするのが適切と考える。

(1)一代限りの特例法とすることによって、国会において、その時代時代の国民の意識、社会状況、天皇の年齢と皇位継承者の年齢、皇室の状況などを踏まえ、法律案として慎重に審議することができる。

(2)但し、特例法とはいえ、重要な先例となるため、将来のことも視野に入れた法整備にしなければならず、今上陛下の退位を認める事情等を法文上明らかにする必要がある。

五、今後の検討

以上の考え方に沿い、政党間の合意形成がはかられることを期待するとともに、政府は速やかに法整備を検討すべきである。

また、退位される今上陛下の退位後の地位、敬称、処遇等の特例についても、あわせて検討されるべきである。

なお、女性宮家の創設など、安定した天皇、皇室制度のあり方については、今後の検討課題とする。以上

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