成立した年金制度改革法

公明新聞:2016年12月18日(日)付

見直しの理由は

将来世代の給付水準を確保

公的年金制度の持続可能性を高めるとともに、世代間の公平性を保つことが目的だ。年金は、現役世代が納める保険料を今の年金受給者への給付に充てる“世代間の仕送り”で成り立っている。

そのため、年金を受給する高齢者が増え、支え手である現役人口が減る少子高齢社会では、全ての世代が負担を分かち合わなければ年金財政が成り立たない。

2004年の年金制度改革では、保険料の上限を決めて17年度まで段階的に引き上げ、現役世代の負担を増やす一方、高齢者の年金額を調整(抑制)するための「マクロ経済スライド」を導入した。物価や現役世代の賃金が上昇して年金額がプラス改定になる場合にのみ、その伸びを本来よりも低く抑える仕組みだ。

しかし、長年に及ぶデフレ(物価の持続的下落)によって、現役世代が納める保険料は上がってきた一方で、同スライドは15年度を除いて発動できなかった。

また、リーマン・ショックの影響などで現役世代の賃金水準(負担能力)が下がっているにもかかわらず、それに見合った年金額に下げることもできなかった。結果、年金の給付水準は想定より高止まりしている。

現在の給付水準が高いということは将来の給付を“先食い”している状態であり、若者世代の給付水準低下を招いてしまう。

特に、全加入者に共通している基礎年金部分については、現在の年金給付の水準が本来より1割程度高くなっており、若者世代が受け取る水準が1割程度低下する見通しであることが明らかになっている。

今後、物価や賃金が下がるような不測の事態が生じた場合に、若者世代の給付水準がこれ以上、低下してはならない。今回の見直しは、こうした事態への“備え”を設けるものだ。

どう変わるのか

賃金の下落に給付額を連動

まず、2018年度からマクロ経済スライドを強化する。デフレ下では同スライドによる給付の抑制を行わないという配慮を維持しつつ、デフレ時に見送った抑制分を翌年度以降に繰り越し、物価・賃金が上昇して年金額も増える景気回復期に、繰り越し分も含めて年金額の伸びを抑える調整を行う。ただ、受け取る年金の額面が前年度より減ることはない。

また、21年度からは、年金の支え手である現役世代の賃金が下がるような不測の経済状況になった場合、年金もそれに見合った額にして現役世代と高齢世代で“痛み”を分かち合う。

現行の年金額改定ルールには「物価が上がって賃金が下がれば年金額は据え置き」「物価の下落以上に賃金が下がれば物価に合わせて改定」との例外があるが、賃金の下落に給付額を連動させる今回の見直しを行わないと、現役世代にとっては、賃金の低下に加えて将来受け取る年金の水準も下がるという“ダブルパンチ”になってしまう。

このほか、従業員(厚生年金加入者)500人以下の中小企業などで働く短時間労働者について、労使が合意すれば厚生年金が適用される仕組みを17年4月から導入する。国民年金に加入する女性を対象に、出産前後4カ月間の保険料を免除する制度も19年度からスタートさせる。

“年金カット”か

不安をあおる的外れな批判

賃金変動に見合った年金額とする新改定ルールについて、民進党などは“年金カット”と批判しているが、新ルールを導入しても物価や賃金が上昇していれば年金額は下がらない。

他方で、民進党などは、特に目立った賃金下落が続いた過去10年間のデータに新ルールを当てはめた一方的な試算を根拠に“年金カット”と批判している。これは、今後、賃金が下がり続けると決め付けて「年金が減る」と不安をあおっているようなものだ。

また仮に賃金が下がって年金額が下がる事態になっても、年金受給者の生活への影響を最小限に抑えるため、新ルールが導入される2021年度に先立って、19年10月には低所得・低年金の人に対する年最大6万円の福祉的給付が始まる。

マクロ経済スライドについては、民主党政権下の12年に当時の岡田克也副総理(前民進党代表)が、国会答弁の中で「今の改革の根幹だ。もっと高く評価すべきだった」と述べ、その意義を認めている。さらに、給付の抑制の先送りを回避する必要性も指摘していた。

民進党の批判は、こうした過去の発言と矛盾しており、「『年金カット法案』といった的外れの批判に終始した。国民の不安をあおり、政権不信を高める狙いがあったのだろう」(15日付「読売」)と言われても仕方のないものだ。

各紙社説や識者の評価

新聞各紙の社説

「少子高齢社会で、年金制度を維持するには、世代間で痛みを分かち合うことが欠かせない。そのために必要な一歩だ」(15日付「読売」)

「年金をめぐっては、現役世代には将来、十分な金額を受け取れるのかという不安がある。法案は、将来世代の年金水準を守り、年金制度を持続させていくためのものだ」(1日付「朝日」)

識者の見解

<帝京大学の山口修教授>

「年金制度の維持には、マクロ経済スライドや賃金に合わせて年金額を改定できるようにする賃金・物価スライドのルールの見直しは不可欠だ」(11月17日付本紙)

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