「早く故郷に帰りたい」

公明新聞:2016年12月14日(水)付

イベントに参加し、交流を楽しむ室南出口仮設団地の住民ら=11日 熊本・大津町イベントに参加し、交流を楽しむ室南出口仮設団地の住民ら=11日 熊本・大津町

若者流出し、地域の存続危機
熊本地震8カ月
熊本・南阿蘇村 立野地区

熊本県南阿蘇村の立野地区(新所区、立野区、立野駅区の3行政区)は今なお、土砂崩れの危険にさらされ、ライフライン復旧のめども立っていない。避難勧告は解除されておらず、多くの住民が仮設住宅などでの生活を余儀なくされている。生活再建に向け、さまざまな課題を抱える住民の今を追った。=熊本地震取材班

ボランティア みなし仮設の孤立化防ぐ

地震で倒壊した家屋などが残る立野地区=9日 熊本・南阿蘇村「ほら、こっちきて一緒にしなっせ!」―。熊本県大津町の室南出口仮設団地(78戸)で11日、ボランティア団体によるシーサーの手作り体験や沖縄そばの炊き出しが行われ、入居者らの楽しげな声が広場に響きわたった。

熊本地震によって、交通の要衝である阿蘇大橋が崩落し、村中心部と寸断された立野地区。多くの住民が南阿蘇村に隣接する大津町の仮設住宅や、民間の住宅で家賃の支援が受けられる「みなし仮設」に身を寄せている。同団地に居住する山田ナリ子さん(70)は「いつかは住み慣れたふるさとに帰りたい」と語る一方、「また地震があったらと思うと恐ろしい」と不安を漏らす。

先月までに村が住民を対象に行ったアンケートでは、村内に住み続けるかを判断する上で「自然災害に対する安全性」を重視するという回答が最も多かった。避難勧告が解除されたとしても「安心して暮らせる環境が整わなければ、ふるさとに戻ることはできない」との意思の表れだ。

事実、同地区の子育て世帯は安全面の確保や、通勤・通学の利便性を優先し、村外での生活再建を進めている。今後、村の復興のめどが立ったとしても地域の存続は危うい。

一方、若い世代だけでなく、高齢者世帯にも先行きの見えない不安が影を落とす。菊陽町のみなし仮設に住む丸野健雄さん(72)は「最初は皆、立野に帰ろうと話していたが、今の生活に慣れ、思いが薄れてきている」と寂しさを募らせる。

みなし仮設の入居者を取り巻く孤独感は深刻だ。同郷の顔なじみと会う機会が激減することから同団地では現在、みなし仮設の住民にもボランティア行事への参加を呼び掛けるなど、コミュニティーの再構築に取り組んでいる。同団地で立野地区の代表を務める矢野克巳さん(70)は、「地域存続のためには、国や県、村が一日も早く復興への道筋を示すことが必要だ」と訴える。

「空気もきれいで自然も豊か、都会より不便かもしれないが住めば都だよ」と郷土愛をしみじみ語る立野地区の住民たち。安心してふるさとで暮らせるその日まで、さらなる復興の加速が求められている。

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