「社会的孤立」と「制度のはざま」

公明新聞:2016年11月1日(火)付

「地域食堂」で絆を深める住民たち=宮城・石巻市の仮設開成団地「地域食堂」で絆を深める住民たち=宮城・石巻市の仮設開成団地

3・11被災地から支援のあり方を考える
つながりと自立の場を提供
福祉仮設住宅「あがらいん」
宮城・石巻市

わが国では人口減少社会を迎え、単身世帯が増え近隣関係も希薄化が進む。また、軽度の障がいや認知症を抱えながら、福祉や介護の支援が受けられないなどのケースが増加傾向にある。こうした「社会的孤立」や「制度のはざま」にある人をいかに支えていくか―。“課題先進地”となっている東日本大震災の被災地、宮城県石巻市の福祉仮設住宅「あがらいん」の取り組みと仙台市で開かれたNPO主催のセミナーから考える。(東日本大震災取材班)

石巻市の仮設開成団地(1142戸)では、最大3000人近くいた入居者が自宅再建や災害公営住宅への転居で3分の1の1034人(10月1日現在)まで減少している。

同市の仮設住宅は、被災前の居住地が考慮されずに抽選で入居が決められたため、仮設団地の多くは人間関係が薄く自治会の設立が難航するなどコミュニティーづくりに苦労してきた。住宅再建や災害公営住宅への転居が本格化する中、現在はコミュニティーの再構築が課題となっている。

■地域食堂で絆

開成団地の福祉仮設住宅「あがらいん」は2011年12月の開設以来、同団地で住民を結び付ける機能を担っている。具体的には、子育てサロンや1食500円で利用できる「地域食堂」などを開催。厚生労働省の地域支え合い体制づくり事業を活用し、運営されている。

10月20日の地域食堂のメニューは焼き肉定食。仲間同士がテーブルを囲み、井戸端会議に花を咲かせる。災害公営住宅に転居してからも、地域食堂に通う及川節子さん(79)は「ここは、友だちに会える憩いの場所」と笑顔を輝かせていた。

「あがらいん」の阿部勇主任は「仮設ではコミュニティーの崩壊、災害公営住宅は孤立の心配がある。“この場”が住民同士をつなぐ役割を担いたい」と力を込める。

■個人に焦点

心身や家族関係などに課題があり仮設で暮らせなくなったが、福祉や行政の支援の対象にならない―。こうした「制度のはざま」にある被災者を「あがらいん」では、市からの委託で一時的に預かり、その人に必要な医療や福祉など多様な社会資源と連携しながら自立を促している。

一例を挙げると、仮設住宅を“ごみ屋敷化”した人を受け入れ、医療機関につないだ結果、精神疾患が判明。病への対処によって、心と生活が安定し、現在では災害公営住宅へ自身で手続きをして入居し、自活するまでになった。

「あがらいん」の高橋正佳チーム長は、「困難を抱えた人を24時間見守って、課題解決の糸口を探る。必要に応じて医療や福祉につなぎ、地域で自立して暮らせるよう支援している」と語る。

課題解決のカギは“地域”住民、行政、多機関の連携を

「社会的孤立」や「制度のはざま」に陥った人への支援について活発な意見が交わされたセミナー=仙台市「社会的孤立」と「制度のはざま」を考えるセミナーが10月16日、仙台市で開催され、行政や福祉関係者らが活発に意見を交わした。生活困窮者の自立支援などに当たるNPO法人「全国コミュニティライフサポートセンター(CLC)」が主催した。

冒頭、厚労省社会・援護局地域福祉課の本後健・生活困窮者自立支援室長は、同省が今年7月に設置した「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」について、「地域に暮らす全ての住民が状況に応じた支援を受けられる新しい地域包括支援体制の構築をめざしている」と説明した。

熊本地震で大きな被害を受けた熊本県西原村のNPO法人「にしはらたんぽぽハウス」の上村加代子施設長は、障がい者や生活困窮者が役割分担し、農作業などにいそしむ一方、住民に“応援団”となってもらい地域ぐるみでサポートする取り組みを報告。被災者も含め、「孤立防止と困窮者の自立へ、村や社会福祉協議会と連携しながら見守り続けたい」と語った。

一方、CLCが仙台市で運営する要支援者緊急受け入れ施設「ひなたぼっこ」からは「利用者の17%が、障害者手帳がなかったり、あるいは介護保険の認定外だが支援が必要な“制度のはざま”にあったりする」との状況が発表された。

仙台白百合女子大学の大坂純教授は、「周囲の人が“困っている人”を理解し、地域で支える拠点が必要」と強調。日本福祉大学の平野隆之副学長は、「福祉の制度や施設は“縦割り”になりがち」と指摘し、要支援者が地域で暮らせる援助や施策を横断的に“つなぎ直す”人材の養成と活用を提案した。

孤立を防ぎ、制度のはざまを埋めるカギは地域にあり―。セミナーは、住民と専門機関、行政が協働する地域づくりの重要性を浮かび上がらせた。

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