世界へ、未来へ福島の挑戦

公明新聞:2016年9月11日(日)付

菊池社長の説明を受け、マッスルスーツを体験する羅氏=8月26日菊池社長(右)の説明を受け、マッスルスーツを体験する羅氏=8月26日

東日本大震災5年6カ月―
マッスルスーツ、ドローンなど海外が注目する“技術力”
菊池製作所の現場を追って~南相馬市~

「これほどの技術力とは……」。東京都八王子市の菊池製作所本社で、台湾・経済部技術所の副所長、羅達生は感嘆していた。装着型の筋力補助器具「マッスルスーツ」について熱弁をふるう同社社長・菊池功に、羅は満面の笑みで返した。「介護など今後高まるニーズ(需要)に合った製品だ。連携を深めていきたい」

菊池製作所100分の1ミリという高い精度でスマートフォンの部品製作を手掛けるなど、先端技術の活用を得意とする同社は、小型無人機「ドローン」や災害用ロボットの開発も進める。

福島県浜通り地域に先端技術を集積する「イノベーション・コースト(国際研究産業都市)」構想に政府が総力を挙げる中、同社の取り組みはその“先駆け”として注目を集めている。

今年で73歳になった菊池は、福島県飯舘村出身。15歳の春に集団就職で上京し、カメラ関係のメーカーの門を叩いてドイツ製の技術を学んだ。1970年には一念発起して独立。「要望を聞けば何でも試作品を造る」との気概で挑戦を続け、84年に故郷・飯舘村に主力工場を開設した。「誇り高き故郷を必ず発展させる」と心に誓って。

その心意気、「3.11」にも屈せず。震災直後、本社にいた菊池は「社員の健康確保が最優先」とした上で、飯舘工場での対応を現場判断に委ねた。菊池の思いに呼応するように社員は奔走。2011年4月22日に計画的避難区域に指定されたが、翌5月17日には操業を認める特例措置を受け、工場を再稼働させた。

「国際研究産業都市」構想に先駆

雇用生み出し故郷にも活気

さらに同年10月には、大阪証券取引所ジャスダック市場に株式を上場。そして今年4月、南相馬市に新工場をスタートさせたのだ。

“攻めの挑戦”はまだまだ続く。7月には、ドイツの医療機器開発ベンチャー、SNAP社と歩行支援パワードスーツの開発へ向けた連携協定を締結。「スーツはパーキンソン病患者にも有効。欧州に広げられるのはうれしいことだ」と、SNAP社・最高経営責任者(CEO)のウベ・ザイデルも期待感を募らせる。

「ドイツとは何かと縁がある」と、顔をほころばせる菊池。「新しい産業を興せば、必ず若い人は残る。次なる手は、南相馬工場をパワードスーツの生産拠点にすることだ」

「まだ目の前の仕事に必死で食らいついている状況です」。南相馬工場で働く保良侑奈は、市内の高校卒業後に入社した2年目の19歳。飯舘工場での研修を経て、現在はマッスルスーツの組み立てに従事する。

入社のきっかけは、高校時代の企業見学だった。「世界で通じる技術が地元にあることに、誇りを感じたのです」。保良だけではない。工場内の同期6人も同じ思いだ。「これから出てくる新しい技術を少しでも吸収していきたい」。眼前の仕事に励む若き職人たちの目が輝く。

「所詮は町工場、されど町工場」。軽快な口調で語る菊池の眼の先には、常に未来がある。「何としても復興に貢献していく。町工場ならではの意地を見せるよ!」

きょう、東日本大震災から5年6カ月。浜通り地域では徐々に避難指示が解かれつつあるが、「除染作業中」と記されたピンク色の旗が街の至る所で目に付く。風雨にさらされた旗の揺れは、「原発災禍、いまだ終わらず」との叫びにも映る。

翻って、菊池ら挑戦者たちは、過酷な現実の中でも微動だにしない。「逆風でも風向きが変われば追い風になる」と言わんばかりに前を向き続ける。道のりは険しい。それでも、一歩ずつ。福島の挑戦は続く―。=文中敬称略

(東日本大震災取材班 比義広太郎、写真・江越雄一)

希望と誇り持てる県へ
福島県知事 内堀雅雄氏

菊池製作所は、震災直後、いち早く飯舘工場の操業を再開し、その後も川内村や南相馬市小高区に工場を開設され、まさに福島県の産業再生のシンボルとして尽力いただいています。

菊池製作所がロボット関連産業に取り組むことで、世界に貢献する「メード・イン・ふくしま」の最先端ロボット開発が進むとともに、若者が地元に定着する環境づくりなど多方面で大きな役割を果たすことが期待できます。

イノベーション・コースト構想の取りまとめから2年。楢葉遠隔技術開発センターの本格稼働やロボットテストフィールドの整備着手など、構想を具体的に動かす新たなステージに入りました。

県としても、引き続き、環境回復、産業振興、風評・風化対策などをしっかりと進め、県民が希望と誇りを持って暮らせる「新生ふくしま」の創造に全力で取り組んでいきます。

創造的復興へ共に歩む
公明党代表 山口那津男氏

私が菊池製作所の南相馬工場を訪問したのは、昨年3月のことでした。その技術力の高さはもとより、工場内で懸命に働く若者たちの姿が印象的で、彼ら彼女らの瞳には、先端技術を扱う“誇り”と“自負”がにじんでいて、頼もしい限りでした。

なおも原発事故の爪痕が深く残る福島県浜通り地域。この地に先端産業を集積し、“世界の福島”へと発展させていくイノベーション・コースト構想が焦点となっています。その先駆けこそが菊池製作所であり、同社の意欲的な取り組みは創造的復興の灯火そのものです。

艱難を乗り越え、否、今も葛藤を続けながらも故郷の再生、そして発展へと尽力される人々がこの地にはいる。震災5年6カ月を迎えた今、こうした人々をより一層バックアップし、共に歩み続けるとの決意を新たにしています。世界へ、未来へ、“新しい福島”を共に築きゆくことを誓って。

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