地域づくりが自殺を防ぐ

公明新聞:2016年8月12日(金)付

被災地における自殺予防の現状と課題などをめぐって活発な意見が交わされた「いのち支える自殺対策」フォーラム=青森市被災地における自殺予防の現状と課題などをめぐって活発な意見が交わされた「いのち支える自殺対策」フォーラム=青森市

「いのち支える自殺対策」フォーラムinあおもり

青森、岩手、秋田の北東北3県で自殺予防に関わる民間団体が集い、地域対策を協議する「いのち支える自殺対策」フォーラムが7月16、17の両日、青森市で開催された。今回は福島県の民間団体も参加し、東日本大震災の被災地における自殺予防の現状と課題、子どもの命を守る対策などについて意見が交わされた。=東日本大震災取材班

岩手 被災住民への訪問に効果

福島 “復興格差”が支援を妨げ


北東北3県は自殺率(人口10万人当たりの年間自殺者数)が高く、早くから民間団体や行政、大学などによる自殺予防の活動が繰り広げられてきた。民学官連携で自殺者を減少させた「秋田モデル」、市町村長の自殺予防意識を高める「トップセミナー」(青森県)、自殺未遂者の再度の自殺を防ぐための救命救急センターでの未遂者ケア(岩手県)など先進事例が多い。

フォーラムの冒頭、NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の清水康之代表が、今年4月に施行された改正自殺対策基本法に基づいた地域における自殺対策について基調講演した。

岩手県の被災地での活動が報告された分科会では、仮設住宅や災害公営住宅に暮らす被災者支援の報告があった。釜石市で傾聴ボランティアに当たっている「はなみずき」の太田フジ江代表は、仮設住宅などにこもりがちな住民に周囲からの情報を得てアウトリーチ(訪問)を続けていることを紹介。これが、「交流会への参加や外に出る“きっかけ”となり、孤立の防止に有効」と強調した。

NPO法人「岩手自殺防止センター」の藤原敏博理事長は、災害公営住宅に入居したり、自宅を再建した人への支援策の重要性に言及。「ローンの支払いの悩みや転居に伴う孤独感を抱えている人は少なくない。そうした人たちへのアウトリーチをしなければ、大切な命が失われていく」との危機感を訴えた。

また、同県内陸部で生活困窮者支援に取り組む参加者から「もともと抱えていた“生きづらさ”に震災が重なったのか、相談件数が増えた」との課題も指摘された。

「福島県の現状と自殺予防」をテーマにした分科会では、自死遺族のサポートをする「福島れんげの会」の金子久美子代表が「東京電力福島第1原発事故に伴う賠償金や義援金など経済的な格差から、心を開いて話せない人が多い」と震災遺族支援の困難さを挙げた。その上で、避難指示解除で帰還する住民に対して「故郷へ帰るという“希望”と朽ち果てた自宅といった“厳しい現実”のギャップがある。困難に直面する人々へのサポートを考えていかねば」と話した。

このほかの分科会では、子どもの居場所と心の健康を確保するため、学校・保護者・地域の連携強化などを討議。

フォーラムでは最後に、各分科会からの報告会が行われ、地域で保健・医療・福祉・教育など多様な機関がつながり、困難な状況にある人を包括的に支援していくことが確認された。

NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」清水康之代表の基調講演から

自治体の実態に即した施策を 首長、議会が対策の要に

わが国では2006年に自殺対策基本法が制定され、自殺は「個人の問題」から「社会的な取り組み」の対象となった。国の施策として09年、都道府県に地域自殺対策緊急強化基金が設けられてから自殺者数は減少に転じ、年間3万人を下回るようになった。自殺者数は欧米では増加傾向にある一方、日本は6年連続で減少。世界保健機関(WHO)も日本の対策を高く評価している。

自殺予防は「うつ対策」だけでなく「地域対策」とすることで効果が出る。その最前線となるのが「市区町村」である。改正自殺対策基本法では都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられた。その上、効果的な取り組みを実施する場合、国から交付金が交付されるようになり、地域における自殺対策の“恒久財源”が確保された。これにより中長期的な視点で対策を推進できるようになった。

計画策定に当たり重要なのは「無職の中高年男性」とか「若年世代の単身者」など、その地域に多い自殺者の傾向を分析し、実態をつかむこと。計画の立案・実施には、自治体の首長を巻き込むと、関係部局や民間団体との連携がうまくいく。そのためにも、市町村長を一堂に集め、自殺対策の意識を高める「トップセミナー」の開催を県に働き掛けてほしい。計画とその実行をチェックする議会も対策の要であることを強調しておきたい。

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