コラム「北斗七星」

公明新聞:2016年3月9日(水)付

没後20年、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を再読して、あらためて「司馬文学はまことに奥行きの深い人間学」(谷沢永一)との感を深くした。文中で語られる主人公・坂本竜馬と土佐勤王党を率いた武市半平太の人物論は、まさに人間学そのものである◆尊皇攘夷のため政敵を排除するためなら天誅と称して暗殺にも手を染めた武市。司馬は、「人物の格調の高さは薩摩の西郷に匹敵する」としつつ、「最も重要なところで武市は違っている」「天誅、天誅というのは聞こえはよいが、暗い。暗ければ民はついて来ぬ」と喝破した◆一方、勤王党と袂を分かった竜馬は明るい話術の持ち主で、天下国家を論ずる時も相手をころがすほどに笑わせた。司馬は言う。竜馬の笑顔にはひどく愛嬌があり、その愛嬌に万人が慕い寄り、いつのまにか人を動かし世を動かし、大事をなすに至る、と◆陽の竜馬と陰の武市。司馬の人間学は、明るさと温かさが人と人を結びつけ絆を深める要諦であると教えている。糸へんに半分と書いて絆。互いに半分ずつ糸を結び合い心を通い合わせる対話こそが、先入観や誤解、偏見を解きほぐし、理解と信頼と共感を生んでいく力だ◆弥生3月、春本番! 人々を明るく温かく照らす太陽のごとき情熱で、伸び伸びと「対話拡大の春」を推進していきたい。(鈴)

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