なぜ減らない 食品ロス

公明新聞:2016年3月3日(木)付

廃棄された食品の不正転売事件を受け、まだ食べられるのに捨てられている「食品ロス」に注目が集まっている。国は2012年に関係省庁の連絡会議を設置し、対策に取り組んでいるが、目立った成果は聞こえてこない。食品ロスはなぜ減らないのか。原因を探った。

鮮度に過度なこだわり

事業系の発生を増やす要因に

各国における食品廃棄物の状況世界では約8億人が栄養不足状態になっている一方、大量の食料が捨てられている。日本でも約6割の食料を輸入に頼る中で年間1700万トン(魚のアラなど有価物を含めると2801万トン)の食品廃棄物が発生。食品ロスは、このうち642万トンで約4割を占める。

国内の対策が始まったのは、公明党が成立を主導した食品リサイクル法がきっかけ。同法は2000年6月、製造や小売、外食など食品関連の事業者から排出される食品廃棄物の発生抑制と再生利用の促進を目的に制定された。

08年には農林水産省が食品ロス削減に焦点を当てた検討会を開催。12年7月には消費者の意識改革を目的とした関係省庁による連絡会議が設置された。現在6府省庁で取り組みが展開されている。

しかし、食品ロスの削減は思うように進んでいない。理由の一つに実態把握の難しさが挙げられる。排出元は半分が事業者、残り半分が家庭というように非常に広範囲な上、混ざり合う廃棄物の内訳を整理するのは容易ではない。「年間642万トン」という数字は昨年6月、農水省と環境省の調査で初めて明らかになったもので、それまでは「年間500~800万トン」という大まかな推計値しかなかった。

事業系ロスの課題は、鮮度や品質に対する消費者の過度なこだわりや、それに必要以上に応えようとする事業者側の過剰なサービス意識だ。公益財団法人・流通経済研究所の重冨貴子主任研究員は「気を使いすぎるあまり、ロスが出る構造になっている」と指摘する。

さらに業界団体が細分化されているため、包括的に取り組みを進めようとしても「よそがやらないなら、うちもやらない」となってしまい、調整に非常に手間取るのも日本の特徴だという。

一方の家庭系ロスについては、削減の啓発にとどまっているため、行動へと浸透するのに時間が掛かる上に、成果が見えにくい面がある。

定義は海外でもバラツキ

海外でも、各国で食品ロスを削減する取り組みが展開されている。

アメリカでは、賞味期限が迫った食品を引き取り、生活困窮者へ無償提供するフードバンク活動への政策的支援が充実。余剰食品を寄付した企業に対し、原価の一定割合を控除する税制優遇や、事故発生時に食品提供者の責任を免除する法律などを定めている。

フランスでは先月、大型スーパーで売れ残った食料の廃棄を禁じ、フードバンクなどへの寄付を義務付ける法律が成立。違反に罰金を科す厳しさが話題を呼んでいる。

デンマークでは、賞味期限切れの食品を専門に扱うスーパーが先月登場し、最大5割引きで販売。毎朝行列ができる人気ぶりと伝えられている。

監視・調査活動では、イギリスの取り組みが進んでいる。政府機関の財政支援で設立された循環型社会をめざす非営利団体「WRAP(ラップ)」が、食品廃棄物に関するさまざまな調査を実施し、実態を詳細に把握。削減に取り組む事業者へのノウハウ提供や、消費者へのキャンペーンなども手掛けている。

家庭系ロスの対策では、韓国が家庭の生ごみに対し従量制で課金する制度を導入している。

欧州連合(EU)は12年、食品廃棄物を25年までに半減させることなどを加盟国に要請する決議を採択し、国連も昨年9月、30年までに世界全体の1人当たり食品廃棄物を半減させる目標を採択するなど、食品ロス削減は国際的な流れになっている。

ただ「ようやく本格的な気運が高まってきた段階」(流通経済研究所・神谷渉主任研究員)で、食品廃棄物の定義も国によってバラツキが目立つのが現状だ。着実に取り組みを進めるには「一人一人の意識変革と社会的な仕組みづくりの両輪が必要」(同研究所・重冨研究員)だ。

国民への意識啓発など全力

食品ロス削減推進プロジェクトチーム座長
竹谷とし子 参院議員

食品ロスは家計に負担を掛ける上、企業の利益率を下げる要因であり、ごみとして出された物の処理費用は自治体の負担になります。焼却処理でも二酸化炭素(CO2)を排出して環境負荷を与えており、あらゆる面でいいことがありません。関係者が多岐にわたるため、削減するには国民運動として取り組む必要があります。

公明党は昨年12月、食品ロス削減の取り組みを強化するプロジェクトチーム(PT)を党内に設置しました。これまでに農水省や環境省などから問題の現状について説明を受け、意見を交換。現在、先駆的な活動を行う関係者からのヒアリングを実施しています。

今後はフードバンク事業などの現場を視察し、それらを踏まえて提言を取りまとめ、政府に申し入れする予定です。食品ロス削減に向け、国民への意識啓発などに全力で取り組みます。

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