世界に広がる母子手帳

公明新聞:2015年9月7日(月)付

海外でも広がる日本発の母子手帳海外でも広がる日本発の母子手帳

日本発 命を守る記録
30カ国以上 アジア、アフリカにも普及
今月、第9回国際会議を開催

妊娠・出産の経過、子どもの発育状況を記す母子手帳。戦後混乱期に生まれた日本発の母と子をつなぐ健康記録が今、アジア、アフリカ諸国をはじめ世界30カ国を超える地域へ広がっている。今月15~17日には、カメルーンで第9回母子手帳国際会議(主催=カメルーン保健省、国際母子手帳委員会)が開催され、各国が活用状況などを発表することになっている。

今回の母子手帳国際会議には、初参加のガーナなど22カ国が参加し、日本の母子手帳を参考にした各国の取り組みが紹介される。1998年に第1回会議が東京で開かれて以降、世界各地で開催。行政職員や医療従事者などが集い、互いの教訓や成果を共有し合っている。

母子手帳には、妊娠中から幼児期までの健康記録が、途切れることなく1冊の中に収められている。保護者が手元に保管できるのも利点だ。一方、海外では、母親と新生児の健康手帳が別々である国や、母親の健康記録さえない国もある。

現在、日本の発想を取り入れた母子手帳は、世界30カ国以上に拡大。中でも、乳幼児死亡率が高い途上国では、母子保健サービスの向上に大きく貢献している。国によっては、母親の教育レベルや識字率を考慮し、絵やイラストを多く活用した“手帳”もある。

「各国で定着を図るため、日本の母子手帳をそのまま翻訳せず、(その国の)既存の教材や冊子などを生かしている」と話すのは、NPO法人HANDSの代表理事として、海外における母子手帳の普及活動を進める中村安秀大阪大学教授。現在、国際母子手帳委員会委員長を務める。中村教授は86年、国際協力事業団(現国際協力機構=JICA)の母子保健専門家としてインドネシアに赴任。母親たちが、出生時の体重や妊娠中の状況などを把握していない現状を目の当たりにして、医療スタッフに日本の母子手帳を紹介した。

インドネシアでは、2004年に母子手帳を推奨する保健大臣令が出て以降、全土に広がった。これがきっかけとなり、母子手帳は発展途上国を中心に注目されるようになった。前回、国際会議を開いたケニアでは、国家エイズ対策委員会委員長のミリアム・ウェレ博士が、中村教授の活動に共感。同博士は、会議の開催に尽力するとともにアフリカでの普及活動に汗を流す。5歳未満児の死亡率が世界で最も高いアンゴラでも、状況の改善に向けて、母子手帳を試験的に導入している。

日本の母子手帳は戦時中の1942年に作られた「妊産婦手帳」が原型とされる。48年には、出産後の乳幼児期の記録も含めた「母子手帳」が誕生。66年に保護者の記入欄が追加され、名称は「母子健康手帳」に変わった。現在、国内では母子手帳の電子サービスを導入する自治体や企業も出始めている。

中村教授は「日本では当たり前の母子手帳が、海を渡り、母子の健康を守っている。先人から受け継いできた“遺産”がこうして広がるのは嬉しい。引き続き、母と子を守る活動を進めていきたい」と語っている。

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