党税調の「韓国調査報告」から

公明新聞:2014年10月29日(水)付

スーパーの肉売り場を視察する上田、西田、斉藤の各氏=ソウル市スーパーの肉売り場を視察する(右から)上田、西田、斉藤の各氏=ソウル市

非課税制度(消費税の軽減税率に該当) 国民生活に定着

消費税の軽減税率実現に向け、公明党税制調査会の斉藤鉄夫会長、上田勇会長代理(ともに衆院議員)、西田実仁事務局長(参院議員)は、日本の消費税に相当する付加価値税に非課税制度を設けている韓国を訪問し、17、18両日、運用実態を調査した。韓国国税庁、税務処理に携わる法務法人、小規模事業者団体からのヒアリングと、ソウル市内のスーパーマーケットや市場などの視察を踏まえ、党税調がまとめた韓国税制調査報告の内容を紹介する。

 

食料品の税負担を軽減

食料品などの生活必需品にかかる消費税を低く抑える軽減税率は、2014年度の与党税制改正大綱で「消費税率10%時に導入」と決められている。具体的な対象品目や事業者の経理手法などをめぐり、与党税制協議会で検討が進められてきた。6月には論点整理をまとめ、対象品目で飲食料品の8パターン、経理手法で4パターンを公表。7月から8月にかけては事業者団体や消費者団体など62団体からヒアリングも行った。公明党税制調査会は、対象品目や税率、財源、経理手法などの議論を詰め、年末までに制度設計を固める方針だ。

軽減税率をめぐる議論は、これまで欧米諸国の先進事例が参考にされてきたが、隣国の韓国では、1977年から日本の消費税に当たる付加価値税とともに、食料品などに非課税制度を取り入れている。公明党税調は今回、軽減税率導入に向けた議論をさらに深めるため、複数の税率が存在する韓国で、その線引きや納税事務が消費者や事業者にどのように受け止められているかを調査した。

韓国が付加価値税の導入と同時に、食料品の一部をはじめとした生活必需品を非課税扱いにした背景について、韓国国税庁や法務法人の担当者は「物価上昇を抑え、付加価値税全体に対する国民の理解を得るため」と説明。国税庁の申壽遠・個人納税局長は、所得が低い人ほど負担が重くのしかかる付加価値税の逆進性を緩和する必要性にも触れ、「非課税制度の導入は韓国の国民から共感を得ている」と述べた。

また、小規模事業者団体からは「内需関連の市場活性化に資する」との声も寄せられた。調査報告では「逆進性の緩和や経済対策としての効果により、付加価値税に対する国民の理解が得られたからこそ、韓国では一部食料品の非課税制度がすっかり定着している」と分析。

斉藤税調会長は「韓国では、食料品の中で課税と非課税が線引されているが、事業者も消費者も現場に混乱はなく運用されている」と指摘し、軽減税率導入に向けた与党協議に生かしていく考えを表明した。

付加価値税(日本の消費税に相当)の概要

37年間、税率10%を維持
国民食「キムチ」も非課税に

付加価値税の概要韓国の付加価値税は1977年の導入から37年間、税率10%を維持している。また、生活に不可欠な財・サービスの国民負担を軽減する目的から、コメや野菜、魚、肉など加工されていない食料品(未加工食料品)は、原則として非課税。さらに水道水、医療、教育、旅客輸送サービス、新聞、書籍、雑誌なども非課税だ。食料品に限れば、未加工品に加え、キムチや漬物、しょうゆ、みそ、コチュジャンなど韓国の食生活に欠かせない品目で簡易な包装による単純加工品も非課税とされている。

一方、小規模事業者には免税制度と簡易課税制度を適用。免税制度は課税期間(6カ月)の売上高が2400万ウォン(約245万円)未満を対象とし、簡易課税制度は前年の売上高が4800万ウォン(約490万円)未満の事業者に簡易な税額計算による納税を選択できるようにしている。

商品の価格表示は、法律の規定はないものの、所管官庁ごとに総額表示を基本とした指導が行われ、一般的には税込みの「総額表示方式」の運用が定着している。

また、韓国では付加価値税とは別に、宝石、貴金属製品などの“贅沢品”や、競馬、競輪、カジノなど娯楽施設への入場に対し、「個別消費税」を設定。これは所得にかかわらず、同じ税率がかかる付加価値税の逆進性を緩和する措置とされている。

課税の線引きは

問い合わせ、年にわずか数件
レジ従業員から声を聞く斉藤、西田の両氏=ソウル市食料品の中で課税と非課税の線を引いたことをめぐって、調査団は「消費者、事業者ともに混乱はなく、既に定着している」としている。スーパーマーケットのレシートには、非課税品目の商品名に「印」が付けられ、小計欄に非課税、課税、付加価値税の合計額がそれぞれ記されている。

商品ごとの課税・非課税に関する消費者からの問い合わせは、「100人に1人程度いるが、苦情を申し出る客は年間1人ぐらい」(大型スーパー「emart」の担当者)。「課税か、非課税かは国による決め事」(同)という認識が浸透している状況を確認した。

一方、事業者側では、国税庁のシステムとリンクしたPOSレジ【メモ参照】の普及が進んでいる。これは、レジスターのマスターデータに一品ずつ課税・非課税を登録。自動的に区分計算されるため、「線引きをめぐる大きな問題は生じていない」(小規模スーパーの店主)という。また、野菜や果物、魚を売る露天商が出店する「伝統市場」では、もともと非課税の生鮮食料品や農産物を取り扱っている上に、売上高が少ない免税事業者が大勢を占めているため、線引きの影響はない。地元密着の商店街でも青果店や鮮魚店の場合、同様に混乱は生じていなかった。

国税庁では、事業者から納税事務に関する問い合わせを書面で受け付けているが、課税・非課税の線引きに関するものは「年間数件程度」との説明があった。

※POSレジ 店舗で商品を販売するごとに商品の販売情報を記録し、集計結果を在庫管理やマーケティング材料として用いるシステムのこと。緻密な在庫・受発注管理ができるようになるなど、他のデータと連携した分析・活用が容易になる。

納税事務は

電子処理で「苦にならない」
国税庁の担当者から説明を聞く西田、上田の両氏=ソウル市韓国では付加価値税の開始当初から、納税事務の透明性を図る観点でインボイス方式が導入されている。税額が記載された「税金計算書」に基づき、売上げに関する税額から仕入れに関する税額を差し引いて納税額を計算する仕組みだ。この税金計算書は、領収書や請求書の機能に加え、法律に基づき税金を納めた事実を証明する重要な課税資料の役割も持つ。

国税庁の説明では、原則として取引ごとに税金計算書を発行しなければならないが、負担軽減策として1カ月分まとめて発行することができるようになっているという。また、現在はコンピューターシステムの普及によって納税事業者は「電子税金計算書」で簡単に納税事務を処理している。調査報告では、納税事業者や法務法人からのヒアリングを通じ、税率が10%(課税)と0%(非課税)の複数あっても「事務負担を苦にする声はなかった」としている。このコンピューターシステムは、これまで手書きで対応してきた納税事業者にも違和感なく取り入れられた。報告には、「税金のことなので必死に勉強し、一週間ほどで慣れた」との小規模スーパー店主の声も紹介されている。

このほか、インボイス方式が定着した理由として、2000年代以降、クレジットカード決済が普及し、納税事業者のコンピューターシステムの仕組みとかみ合ったことも挙げられる。

韓国の調査を踏まえ、西田事務局長は「事業者からの問い合わせに応じる行政の対応や、コンピューターシステム導入への支援が円滑な軽減税率導入に向けて大事だ」と語った。

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