地方議員の構想力を高めよ

公明新聞:2014年10月7日(火)付

佐々木信夫・中央大学教授に聞く

人口減少による自治体消滅が指摘されるなど地域をめぐる課題が山積する中、地方議会や地方議員に地域の将来像をつくる能力が求められている。地方議員の構想力を高めるには、何が必要か。中央大学の佐々木信夫教授に聞いた。

住民報告会や意見交換会を定期的に開け

議員同士の議論が必要

政策テーマごとの研究会で

―地方議会が果たすべき役割は。

佐々木信夫教授
執行機関である首長の提案に対し、住民の目線で審議して修正、決定する。さらには自らが政策を提案していく。これが本来あるべき地方議会、地方議員の姿だ。具体的には、(1)政策や予算の決定(2)執行状況の監視(3)政策や条例の立案(4)住民の意見の集約―の四つの機能である。

選挙で選ばれた首長と議会で構成される二元代表制では、それぞれが住民の代表者として相互に抑制均衡関係を保ち、どちらが民意を反映するかを競い合う関係が求められている。しかし、「議会はチェック機関」と勘違いしている議員も多い。重要な役割の一つではあるが、あくまでも「議会は地方政治の主役」で決定者、提案者だという自覚を持たなければならない。

―議会の政策立案能力を高めるには、何が必要か。


佐々木 本会議や委員会で個々の議員が首長に質問するだけでは不十分だ。首長が提案した政策が本当に住民の意向を忖度しているか、幅広い民意を吸収する立場にある議員同士が議論し、深く掘り下げる必要がある。

例えば、まちづくりや人口減少、地産地消など政策テーマごとに研究会を立ち上げてはどうか。そこでの議論を基に、首長に修正を迫ったり、新たな提案をぶつけていくべきだ。

予算の修正も、どんどん提案した方がいい。現状では議会に予算の提出権はないが、予算研究会を設置して独自に「もう一つの予算」を編成してみてはどうか。自治体が直面する課題の全体像が見え、改革の焦点がはっきりするはずだ。そうすると、議員の質問にも経営者の視点が入ってこよう。

―住民の意見を的確に受け止める具体策は。


佐々木 民意は4年間、変わらないわけではない。その時々の民意をきちんと集約するために、住民とのツーウェイ(双方向)のコミュニケーションを強化する必要がある。議会が機関として定期的に住民報告会や意見交換会を開く。議会の決定に対する説明責任を果たすとともに、住民の意見を聞く仕組みをつくり、自信を持って政策判断をしていくことが重要だ。

民意の反映という意味では、首長1人よりも多くの議員で構成される議会の方が、よりバランスの取れた判断ができるはずだ。自治体の運営は、議会が主導権を握る政治主導こそが民主主義の姿と言える。

条例づくりが力を磨く

専門家を活用し立法の支援を

―議員一人一人の構想力を高めるには。


佐々木 議員が条例や政策をつくってみることだ。その過程で苦労して初めて政策を語れるようになるし、議員の力量が磨かれる。

そのためには、地方議会にも国会の法制局のような政策立案を支える仕組みをつくらなければならない。都道府県や広域市町村ごと(○○市町村圏法制局)に、サポート体制を整える必要がある。

例えば、子育て支援の条例を議員がつくりたいと思っても、どういう条文が適切か、法律との整合性はどうかなど、細かいことは分からない。それを法律の専門家がサポートする。こうした機能がないと百年河清をまつようなものだ。

―人材は、どう確保するのか。

佐々木 各地にある法科大学院の出身者を非常勤の専門員として雇ってみてはどうか。こうした人材を活用できれば、優秀な立法サポーターを確保できる。費用は政務活動費の一部を出し合えばいい。本来の使途に沿っており、ムダ遣いも減るだろう。

地方議会に法制局の機能ができれば、議員提案の政策や条例は格段に増えるのではないか。

―期待される効果は。

佐々木 首長は、議員提案の政策や条例の審議に関連して、「執行機関の最高責任者としてどう考えるか」と聞かれる。執行機関側の緊張度が非常に高まり、自治体職員も真剣に勉強する。地方議会が変われば、地方自治が変わる。地方自治のレベルを上げるのは、議会の力だ。

来年は地方分権が始まって15年。一つの区切りの年に統一地方選挙がある。地方議会は首長の提案を追認するような機関から脱皮し、政策構想力を発揮して存在感を見せてほしい。臨時国会の焦点になっている地方創生も、各地方議会の腕の見せどころだ。いつまでも活性化策を国に頼っているようでは、地方創生はできない。地方から「反乱」を起こすぐらいの気構えで、議会が地方創生をリードしてもらいたい。

ささき・のぶお 1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務などを経て、94年から現職。専門は行政学、地方自治論。著書に『地方議員』(PHP新書)など多数。現在、政府の地方制度調査会委員も務める。

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