がん患者の就労を支援

公明新聞:2014年9月17日(水)付

 相談者から話を聞くハローワーク飯田橋の岡田さんと病院の相談員=9日 国立がん研究センター中央病院 相談者から話を聞くハローワーク飯田橋の岡田さん(向こう側右)と病院の相談員=9日 国立がん研究センター中央病院

治療と仕事の両立めざすモデル事業
ハローワークと病院が連携し、具体的に助言

がんにかかって退職を余儀なくされたり、再就職ができないなど、多くのがん患者・経験者が、“就労の壁”に直面している。2012年に閣議決定された「がん対策推進基本計画」の中で、働く世代へのがん対策が重点課題に位置付けられ、治療と仕事の両立に向けた取り組みが行われている。現状を追った。



東京都中央区の独立行政法人「国立がん研究センター中央病院」。院内の相談支援センターでは月6回、がん患者・経験者への就職相談が実施されている。この日、訪れたのは50代の女性。ハローワーク飯田橋の就職支援ナビゲーター・岡田晃さんと、相談支援センターの相談員が本人の状況を聞きながら、丁寧にアドバイスをする。

女性は6年前に直腸がんの手術を受けて以来、排泄障がいに悩まされているという。2年前には血液のがんにもなり、放射線や抗がん剤治療の影響で髪の毛が抜けてしまった。結果として退職を余儀なくされることに。「がんであることを職場で打ち明けるのは難しく、隠さざるを得ない」と語った。

この就職相談は、2013年度から開始された厚生労働省の「がん患者等長期療養者に対する就職支援モデル事業」の一環だ。ハローワークから専門のナビゲーターが病院へ出張相談に出向き、がんや肝炎、糖尿病などの治療のために離職した患者・経験者に仕事の紹介を行う。現在、全国12都府県15カ所の病院で実施され、同病院では昨年9月から、がん患者・経験者に対するモデル事業を開始した。

同病院では初回の相談時には、社会福祉士などの相談員が必ず同席するなど、ハローワークと病院が密接な連携を取りながら進めていく。相談員が体調や治療状況に配慮した助言を行うことで、本人の就労意欲を尊重しつつ、無理なく働ける仕事を探すことができる。同病院では事業開始以来、14人が無事に就職。介護やコールセンター、営業など職種はさまざまだ。

これまで同病院での就労相談は、働く上での注意点を伝えることなどに限られ、仕事の紹介といった具体的な支援はできなかった。相談支援センター長の加藤雅志医師は「相談と就職支援を同時にできることが、モデル事業のメリット。患者も自信を持って就職への第一歩を踏み出すことができる」と力説している。

ハローワーク飯田橋は、がん患者が希望する条件に沿った求人開拓に取り組んでいるが、企業側の理解はまだ十分ではない。相談者が就労を希望する会社に、岡田さんが直接電話することもあるが、がん治療中であることを伝えただけで、ちゅうちょする企業が少なくない。「企業側も、がんに対する認識を深めていくことが必要だ」と、ハローワーク飯田橋の細田誠・統括職業指導官は訴える。

近年、がんの早期発見や治療法の進歩により、がん診断後5年の生存率は格段に向上している。働く意欲や能力のある患者・経験者も多い。がんになっても安心して働ける社会の構築が今、求められている。

5年生存率60%に向上


がん診断後の勤労者の状況毎年20~64歳までの約22万人が、がんに罹患し、約7万人が死亡している。一方、医療技術の進歩により、がん患者の「5年相対生存率」(治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標)は約60%にまで向上。社会で活躍するがん患者・経験者が増えている。

だが、受け入れ体制が整備されていないため、仕事の継続や再就職は極めて困難だ。04年の厚労省研究班の調査によると、がんにかかった勤労者の約30%が依願退職し、約4%が解雇【グラフ参照】。自営業者の約13%が廃業を余儀なくされている。

12年6月に閣議決定された、がん対策推進基本計画では、「働く世代へのがん対策」を重点課題に位置付けた。同基本計画を受け、厚労省は今年2月、がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会を立ち上げた。患者・経験者とその家族、企業、医療機関など、それぞれが抱える課題とニーズを整理し、取り組むべき施策に関して報告書を取りまとめた。

患者・家族は、職場に病状を伝えにくく、相談先も分からないなどの課題を抱えている。企業側も、がんに対する知識が十分でない場合もあり対応に困っている。浮き彫りになった課題に対し、患者・家族を含めた関係者が積極的に連携した就労支援の必要性に言及している。

同省のがん対策・健康増進課担当者は「就労支援はますます重要になっていく。国民全体へのがんに関する知識の普及啓発も含めた総合的な取り組みが必要だ」と語っている。

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