動物園 険しい再生への道

公明新聞:2014年8月22日(金)付

木登りが得意なマレーグマの「行動展示」。入手が難しく、将来、動物園から姿を消す可能性も=福岡市木登りが得意なマレーグマの「行動展示」。入手が難しく、将来、動物園から姿を消す可能性も=福岡市

2030年の国内飼育数は・・・
アフリカゾウ7頭、ゴリラ6頭に減少
人工繁殖やデータベース共有を急ぐ
福岡市

アフリカゾウやゴリラなど希少動物の入手が困難となる中、動物園や水族館計151施設が加盟する「日本動物園水族館協会」(JAZA)は9月から、飼育動物の状態や繁殖計画を一括管理できるデータベースの運用を始める。そこで、繁殖の促進に向けた取り組みを進めるJAZAと、着実に入園者数を増やした福岡市動物園の試みを追った。


JAZAの岡田尚憲事務局長によると、最盛期に68頭いた国内のアフリカゾウは40頭に、ゴリラは49頭から23頭に減った。JAZAが2011年に行った予測では、30年にはアフリカゾウが7頭に、ゴリラは6頭にまで減少する。「希少種が絶えないよう海外との情報交換にも努めているが、労力や経費は膨大なものだ」とため息を漏らす。飼育動物の減少は入園者数の低迷や経営難にもつながり、JAZA加盟の動物園は2000年の98園から87園に減っている。

飼育動物が減少する背景には、希少生物の国際取引を制限するワシントン条約による輸入規制がある。日本は1980年に批准した。例えばゴリラやオランウータンは最も厳しい規制対象で、学術研究目的であっても輸出国の許可を得るのは難しい。譲り受ける場合もあるが、価格が高騰し、入手のハードルは高い。

JAZAは今年3月、動物の精子や卵子の配偶子を冷凍保存する「配偶子バンク」を、横浜市繁殖センター(よこはま動物園ズーラシア内)に設置した。ホッキョクグマやチーターなど全国の動物園から集めた33種の配偶子を保存し、人工繁殖技術の研究を進める。

同センターの須永絵美所長によると、凍結精子を使った繁殖は全国で3例だけ。「世界のネットワークを使ってでも飼育動物の中で繁殖して継代していくことが求められている」と保存の意義を強調する。さらにJAZAは、各動物園で取り組む繁殖を促進するため、約6万種に上る動物や魚の性別や血縁、飼育状況などの情報を一括管理できるデータベースの運用を来月から始める。近親交配、高齢化といった繁殖の課題を克服するため、動物園を越えた連携体制を整える。

一方、環境省は、野生に100頭ほどしか生息していないツシマヤマネコの繁殖を福岡市動物園などで実施し、成功させている。同省は昨年度、検討会を設置して動物園の在り方について議論。経営難や希少動物が入手困難なことから「従来型の動物園は立ち行かなくなる」との厳しい認識を示す報告書をまとめた。

木登りなど「行動展示」 入場者数、前年比17%の増加

タワー間をロープで移動するボルネオオランウータン(福岡市動物園提供)ボルネオオランウータンのユキ(メス)が高さ15メートルのタワーに登ると、子どもたちが歓声を上げた。同種のミミ(オス)とともに、国内初となるシロテテナガザルとの混合飼育も見どころだ。開園60周年の13年9月に完成した、福岡市動物園の「アジア熱帯の渓谷エリア」では、熱帯雨林の雰囲気を再現。ヒョウやマレーグマの木登りなど動物本来の活動を見せる「行動展示」を導入した。

同園では、06年策定の再生計画に基づき、20年間、総事業費90億円を掛けて、動物園と、隣接する植物園をリニューアルしていく。樋脇弘園長は「新しい時代にふさわしい市民に親しまれる魅力的な動物園へと再生したい」と語る。

同園の入園者数は80年の約172万人をピークに減少し、この15年間は70万人前後で低迷を続けてきた。樋脇園長によると「レジャーの多様化」が原因だが、施設の老朽化や狭い獣舎といった飼育環境の悪さも目立つようになった。施設の改善とともに広報にも力を入れ、13年度の入園者数は95万人に回復した。前年度比17%増は全国でも高い伸び率だ。

それでも動物園再生の道は険しい。入園料は大人400円、中学生以下は無料。入園料収入だけでは職員の人件費すら賄えない状況が続く。「市営だから存続できるが、入園料が2000円以上でないと経営は成り立たない」と樋脇園長は現状の厳しさに言及した。

さらに頭を悩ませているのが動物の確保だ。運動場を約4倍に広げて11年3月にオープンした新アジアゾウ舎では、12年11月に国内で3番目に高齢だったおふく(メス)が死亡し、はな子(メス)1頭のまま。今年は繁殖を目的にアミメキリン(メス)を購入したが、2000万円を要した。ユキやミミのように繁殖を目的に他園から借りている動物も少なくない。

樋脇園長は「動物が高齢化し、繁殖が難しくなっている。国際的に保護の動きが強まっている希少動物の入手はさらに困難」と指摘。今後の展望に関しては「動物に頼るだけでは動物園は再生せず、園自体の認知度を高めるために“ブランド化”が必要だ」と強い危機感をにじませた。

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