主張4年目の仮設住宅 著しい劣化、補修に本腰を

公明新聞:2014年7月18日(金)付

傾斜、腐食、カビ発生など 蝕まれる「最低限度の生活」

小さな石ころが坂道を転げ落ちていくかのように、床に置いたビー玉が勢いよく転がり始めた。一人暮らしの老人がぽつりと呟く。「体調が優れないのも、この“傾き”のせいかも」。宮城県石巻市の仮設住宅での一コマである。

東日本大震災から3年4カ月―。岩手、宮城、福島の東北3県で約9万3000人の被災者が暮らすプレハブ仮設住宅の劣化が著しい。国、県、市町村を挙げての対策が急務だ。

復興庁によると、被災3県のプレハブ仮設住宅は今なお約4万4000戸を数える。「入居期間は原則2年」とする災害救助法の規定に従い、構造は簡素で貧弱だ。「東北の厳しい気候が耐久年数をさらに縮めている」(仙台市の建設業者)との指摘もある。

実際、3県各地の仮設住宅を訪ね歩くと、およそ一般の住宅では見られない急速な老朽化ぶりに驚かされる。

岩手県内で最も広大な釜石市の「平田仮設住宅団地」の一部では、床の歪みや土台の腐食が見た目にも顕著で、入居者ならずとも不安が募る。

石巻市内の仮設住宅では、天井や布団に大量のカビが張り付いている光景に言葉を失った。密閉された構造のため湿度が高く、カビが繁殖しやすいのだという。「防カビ剤の効果も一時的」「健康への影響が心配」といった声が入居者から次々と寄せられた。

それにも増して危惧されるのは、ここにきて仮設住宅に住む一人暮らし住民の「孤独死」が急増していることだ。2011年に16人、12年に38人、13年に41人と増え続け、今年に入ってからは4月末までに既に17人を数える。

仮設住宅の劣化自体とは直接的に関係ないかもしれないが、数字の向こうには、入居者の転出に伴うコミュニティーの崩壊や取り残されたことへの不安などと相まった“仮設暮らし”の厳しい生活実態が透けて見える。

岩手、宮城両県は先月末、仮設の入居期間を特例で5年間に延ばした。福島県は既に延長を決めている。災害公営住宅など恒久住宅の整備が遅れている現状を思えば、やむを得ない措置ではあろう。

問題は、これに並行して入居者の心身の苦痛に対処する施策が十分かどうかだ。家屋自体の本格補修を急ぎ進めるとともに、集団検診やコミュニティーの再生などにも全力を注ぐ必要がある。

憲法25条にうたう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が蝕まれたままにある被災地の人々。目を背けることは許されない。

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