主張新しい刑事司法 冤罪を生まない制度に

公明新聞:2014年7月14日(月)付

「取り調べの可視化」実現は不可欠

無実の人が罪に問われる冤罪ほど不条理なことはない。

法務省法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」(特別部会)が9日にまとめた答申案は、冤罪を生まない新しい刑事司法の構築に向けた重要な一歩を踏み出した。

答申案は、捜査官による取り調べ段階での自白の強要が冤罪の温床になってきた事実を踏まえ、取り調べの全過程を録音・録画する可視化の導入を決めた。法相への答申後、できるだけ早く法制化されることを期待したい。

自白を強要された被告人が裁判で潔白を主張しても、自白が強要されたことを証明するのは困難を極める。しかし、可視化によって強要の有無は一目瞭然となるだけでなく、密室でしか通用しない意図的な取り調べの防止が期待でき、取り調べに過度に依存してきた捜査の在り方自体の改革にもつながる。

このように、取り調べの可視化は、刑事司法の再生に不可欠な制度である。公明党が長年、国会論戦の中で政府に実現を迫ってきたこともあり、検察は2006年から、警察も08年から一部可視化の試行に取り組んできた。

答申案は、可視化を義務づける事件を、裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件に限った。そのため、可視化は容疑者が逮捕された全事件の2~3%にとどまる。

答申案の内容について、特別部会の委員であり、自身も大阪地検による証拠改ざん事件の被害者となった村木厚子厚生労働事務次官は、「録音・録画が義務化される事件は絞られたが、対象になったものは警察の取り調べも含めて、全過程を録音・録画すると決まったのは非常に意義が大きい」と強調している。日本弁護士連合会も「全過程の録音・録画に踏み出したことは、当連合会が求める全事件の可視化実現に向けた第一歩として評価する」との会長声明を出した。

可視化導入の一方で、容疑者が捜査に協力して共犯者の犯罪を明らかにした場合に不起訴にするなどの司法取引や、通信傍受の対象犯罪の拡大といった捜査手法の拡充も答申案に盛り込まれた。捜査当局が「可視化によって容疑者から供述をとることが困難になる」と主張し、捜査のための新たな“武器”として必要性を訴えてきた制度である。

特に司法取引は、無実の人間を共犯者に仕立て上げる恐れもある。冤罪を生まない制度の構築が今回の刑事司法改革の柱であり、法制化に向けてはさらなる論議が必要だ。

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