解説 新・認知症対策5カ年計画

公明新聞:2012年9月19日(水)付

高齢化の加速に伴って認知症が急増している。認知症の高齢者は305万人に達し、13年後の2025年には470万人へと、今年の1.5倍以上に増加する見通しだ。このため、厚生労働省は先ごろ、早期診断と早期対応を柱とした、わが国初の総合的な認知症対策5カ年計画を策定した。同計画のポイントを解説する。

早期診断・早期対応を柱に
かかりつけ医の対応力など向上へ


認知症 高齢者の将来推計計画の柱は「早期診断・早期対応」だ。

これまでの認知症対策は、症状が悪化してから医療機関を受診する「事後的な対応」が中心だった。このため、認知症になると、自宅で生活することが難しく、施設への入所や精神科病院に入院するしかないという考えが一般化していた。

しかし、5カ年計画では、この考えを一変させ、「早期診断」に重点を置くことで、たとえ認知症になっても、住み慣れた地域で暮らし続けられる社会をめざすというものだ。

認知症対策5カ年計画の主な目標早期診断のためには、高齢者の変化を見逃さない、かかりつけ医の対応力の向上が重要である。今や認知症は誰もが発症する可能性のある疾患である。このため、認知症高齢者への日常的な診療や家族への助言は、かかりつけ医が担う必要がある。家族と共に、かかりつけ医による初期段階での“気づき”が症状の悪化を防ぐことにつながるはずだ。

そこで、厚労省は06年度から「かかりつけ医認知症対応力向上研修」を実施し、適切な認知症診断の知識や本人・家族への対応力を身に付けてもらうための事業を行っている。その修了者数は今年度末で3万5000人になる見込みだ。5年後の17年度末には5万人の受講をめざす。これでやっと認知症高齢者約60人に対して、1人のかかりつけ医の受講が終了することになる。

また、厚労省は地域医療体制の中核的な役割を担う「認知症サポート医」の養成も行っており、今年度末2500人の見込みから、17年度末には4000人の受講終了をめざす。

専門家チームが訪問ケア
身近型疾患医療センターの拡充も


認知症の早期診断・早期対応へ新対策のイメージ早期診断・早期対応の目玉として期待されているのが、「認知症初期集中支援チーム」の創設である。

この支援チームは、看護師や保健師、作業療法士などの専門家で構成するもので、地域包括支援センターなどに配置し、認知症高齢者や家族に対して、自立した生活に向けたサポートを行う。

家庭訪問を通し、生活現場でさまざまな情報を収集して、本人や家族の状態を理解するとともに、認知症の症状や病気の進行状況に沿った対応についてアドバイスしたり、認知症ケアの適切な情報提供も行っていく。

一方、今回の5カ年計画には、認知症高齢者の自宅や施設への往診などにも当たり、早期診断を担う「身近型認知症疾患医療センター」の整備が盛り込まれた。

身近型のセンター整備は、現在173カ所ある認知症の早期診断・治療の拠点である「認知症疾患医療センター」に加えて、診療所や中小病院などが、かかりつけ医や地域包括支援センターなどと連携するもので、新たに300カ所程度を整備し、5年後までに約500カ所に増やすとしている。

このほか、認知症ケアにおいては、公明党が主張してきた受け皿としての施設整備や在宅医療・介護の連携、支援体制の強化が重要であるが、多くの自治体では、その取り組みが遅れている。

今後、認知症の高齢者が増加していく中で、住み慣れた地域で生活し続けていくためには、今までの居住系サービスや在宅サービスに加え、24時間365日の定期巡回・随時対応サービスの大幅な拡充も待ったなしだ。

公明党は10年に発表した「新・介護公明ビジョン」で、25年までに特別養護老人ホームを2倍に増やすことや認知症高齢者グループホームの3倍増、日常生活を支援するサポーターの育成などを提案し、施策の拡充を着実に進めてきた。

ほかにも、認知症に関する正しい知識を持ち、地域で本人や家族に対して手助けをする「認知症サポーター」を増やす必要がある。今年度末には350万人に達する見込みで、5年後には600万人にまで増加させる方針だ。

新・認知症対策は、これまでのケアの流れを変え、新たな視点で早期診断・早期対応への転換を図るとともに、医療・介護の基盤整備や地域の助け合う体制の充実などを進め、認知症高齢者を支える地域づくりをめざして、人材の育成を図ることが求められている。

国や自治体の支援充実を
日常生活へのサポートが悪化防ぐ
日本認知症ケア学会 本間 昭 理事長に聞く


身近な人が認知症になる場合もあります。早期発見のためには、どうすればよいと考えますか。

本間 認知症は、脳や身体のさまざまな原因によって、いったん出来上がった知能が持続的に低下し、日常の社会生活や対人関係に支障をきたす状態のことです。

例えば、「うちのおばあちゃんは最近もの忘れがひどくて、よく探し物をしている」「この前も、銀行の通帳が見つからなくて再発行してもらった」「料理の味付けも最近は塩辛くなってきている」「ただ、夜はよく寝ているし、内臓はどこも悪くない」などの変化が目立ってきた時には認知症が疑われます。

早期発見のためには、こうした変化に家族が気づいて、初期段階で専門医の診断を受けることが大切です。そして、医療者側も正しい診断ができるよう、認知症に対する研修機会の拡大が不可欠だと考えています。

認知症が急増しています。認知症高齢者が地域で暮らし続けられるようにするにはどのような支援が必要と考えますか。

本間 認知症の診断や精神症状・身体合併症などへの対応を専門的に行う「認知症疾患医療センター」が全国に約170カ所以上整備されています。

私は、このセンターの機能強化を図り、専門医療機関としての役割だけでなく、アウトリーチ(訪問支援)機能を持たせ、認知症高齢者が住み慣れた地域で安心して生活ができるよう支援すべきではないかと考えてきました。

今回の国の対策では、身近型としてセンター機能が拡充され、必要に応じ、医師が発症者宅に出向いて適切な治療や家族のケアを行います。

また、早期診断・早期対応のため、かかりつけ医に認知症診断の適切な知識や技術を習得してもらう国の「かかりつけ医認知症対応力向上研修事業」があります。この研修には多くの医師が参加するべきですが、都道府県によっては派遣数に差があり、温度差があるのが現状です。こうした研修事業への取り組み強化は重要です。

一方、最近は一人暮らしの高齢者が増えています。一人暮らしの場合、症状の進行が見過ごされがちです。病院で処方された薬をきちんと飲んでいるか、食事をきちんと取れているか、お金の管理ができているかなど、日常生活を送る上で最低限、確認しておかなければならないことがあります。

処方された薬をきちんと飲めるよう、サポートするだけで症状は大きく改善されます。そのためには多職種による関わりを欠かすことができません。

医療者側や訪問介護事業者側の意識の変化が大切で、認知症高齢者が日常生活をきちんと送れているかに心を配り、共通の課題として認識してもらうことが重要な鍵になります。

国の認知症5カ年計画が初めて策定されました。どのように評価されますか。

本間 国の対策は認知症の早期診断・早期対応を柱に、専門家支援チームを高齢者宅に派遣して初期症状を把握したり、地域の治療拠点となる身近型の認知症疾患医療センターの配備が盛り込まれています。

認知症は他の病気と違って、発症した高齢者本人がなかなか声を出せない、また無視されやすい病気です。だからこそ、国や自治体が支援体制の充実にしっかり取り組む必要があるのです。

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