第34回 砂の美術館に行ってみました。

訪問日時
2014年4月20日
訪問者名
矢部義雄
場所
鳥取砂丘 砂の美術館(鳥取市)

悠久の時が生み出した鳥取砂丘は名実ともに日本一の大砂丘として、多くの観光客でにぎわっています。
その砂丘に近い、小高い丘の一角に砂の美術館はありました。

世界初!砂を素材とする彫刻作品の美術館

▼砂の美術館外観。入口にも砂像の作品が。どんな芸術が待ち受けているのか、期待が高まります

2006年11月18日に開館した同美術館は砂を彫刻の素材とし、作品化した「砂像」を展示する世界初の施設です。開設当初の第1期(テーマ/イタリア・ルネサンス)は屋外展示でしたが、第2~3期の仮設テントでの展示を経て2012年4月、展示施設が完成。天候に左右されない屋内での展示が可能となりました。

以来、5、6期を経て、現在、第7期展示となる「砂で世界旅行・ロシア編」が開催されています(2015年1月4日まで)。

▼会場のエントランスにある看板に「撮影OK」の文字が。ありがたいことです

この美術館の特徴の一つは写真撮影ができることです(商用利用を除く)。砂像は芸術品ですが、永遠に残されるものではなく、展示期間が終わるとともに、砂に還っていく、つまり壊されてしまう運命にあるのだそうです。
ゆえに、芸術作品がここにこのようにあったことの証としての写真となるわけです。

一枚一枚の写真を一期一会の思いで撮り、作品に向き合っていこうと、会場に足を踏み入れました。

美術館の概念を超えた巨大空間

▼3階部分はデッキが設けられ、会場全体を俯瞰(ふかん)できるように工夫されています。まさに圧巻

展示場に入ってまず驚いたのが、その会場の空間の広さでした。
美術館のイメージといえば、作品ごとにスペースが仕切られ、順路を追って一点一点を鑑賞していくというものですが、この美術館の建物はまるで大型の体育館を思わせるような開放感があるのです。

砂像という大型の作品を展示するためには必要な空間なのでしょうが、美術館という発想を超えた新しい美術の展示の在り方ではないかと感じました。

10か国19名の砂像彫刻家が集結

▼「リューリク~建国のヒーロー」
会場の一番手前に置かれた作品ですが、入るなり、人がこちらに倒れ掛かってきているように見えてしまうほどにリアリティに満ちています

第7期「ロシア編」は同美術館の総合プロデューサーの茶圓(ちゃえん)勝彦氏と世界10か国(日本、イタリア、ポルトガル、オランダ、ベルギー、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、アイルランド)19名の砂像彫刻家による21作品。サブテーマである「大国の歴史と芸術の都を訪ねて」が示すようにロシアという広大な大地で展開された豊潤な歴史的ストーリーが作品に刻みこまれています。

作品を前にして感じることは、その圧倒的な存在感です。
躍動感あふれる人物造形、きめ細やかな表情までもが見事に表現されています。
多くの作品が歴史の重要な一コマを活写したものですが、まさにその瞬間に私たち自身が目撃者として立ち合っているかのような錯覚さえ呼び起こす力があります。

▼「氷河に眠るマンモス」
約1万年前に絶滅したといわれるマンモスと格闘する祖先たち。生きるために命をかけて戦わざるをえなかった時代の壮絶な一場面

展示には作品の特徴を際立たせる工夫が随所に施されています。
その一つが照明です。
照明は砂といういわゆるモノトーンの素材に陰影を生じさせることによって、生命や魂を吹き込む重要な役割を果たします。
作品制作に当たっても、照明の効果を十分に考慮していると思われます。
その意味でも、照明を自在に演出できる室内展示は当初からの悲願に似たものであったと推察されます。

アートの力が国境をなくす

▼「コサックの力」
15、6世紀ごろに勢力をもたらした騎馬軍事集団のコサック。馬を自在に駆る躍動感が伝わってきます

▼「豊かな民族性」
スラブ民族系ロシア人、非スラブ民族系タタール人、ウクライナ人など、多民族で構成されるロシアを象徴する作品。手前のマトリョーシカが微笑ましい

▼「ナポレオンの撤退」
19世紀初頭に敢行されたナポレオンのロシア遠征は「冬将軍」の到来でやむなく撤退させられます。無敵を誇ったナポレオンに、もはやその威光は感じられません

制作者19名のうち、ロシア人はわずか3名。ほとんどのアーチストは、ご当地の歴史や文化を描いているわけではありません。
にもかかわらず、作品のテーマを生き生きと表現し尽くしているということには、驚きとともに、一人ひとりの作者が作品に注いだ他者に対する深い敬意の念を感じました。
これは展示会全体のコンセプトとして、素晴らしいことだと思います。
現実の政治においては、何かと、きな臭いことが続く昨今ですが、アートの世界においては国籍の違いを超えて、一つのテーマの創造のために力を尽くす意義はあまりに深く大きいと言えそうです。

▼「ロシア音楽~チャイコフスキーとバレエ」
ロシアを代表する作曲家チャイコフスキー。そのバレエ音楽は後世に多大な影響をもたらしています

▼「ソビエト連邦時代」
社会主義時代を象徴するモニュメント的作品となっています。力強さ、団結などのイデオロギーを表現

▼「ロシアの科学技術~宇宙開発」
ソビエト連邦が力を注いだ宇宙開発。作品は不敵な笑みを浮かべるガガーリン(1991年有人宇宙飛行に成功)

ロシアに根付いた豊かな芸術と文学、しかしそれを踏みにじろうとした全体主義の政治、一方、大国間のメンツというやむを得ない事情から突き進んでいった宇宙開発競争など、短い期間に目まぐるしく変化した歴史の経緯も見事に描かれています。
これは私感ですが、ソビエト連邦時代に描かれる男女が完全なる無表情であることに作者の思い入れを見たという気がします。

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