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【主張】医療用物資の不足 輸出制限する国の増加を懸念
新型コロナウイルスが依然として猛威を振るう中、医療従事者が使うマスクや防護服、手袋などの医療用物資の不足が深刻化している。
これらの物資は、新型コロナウイルスの脅威に直に向き合い、検査や治療に専念している医療従事者を感染から守るために不可欠なものだ。何としても確保しなければならない。
心配なのは、医療用物資を各国に輸送する国際供給網の途絶だ。世界貿易機関(WTO)が先月下旬に公表した報告書によると、WTOに加盟する72カ国・地域と、非加盟の8カ国・地域が、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、医療用物資の輸出を禁止、もしくは制限する措置を講じているという。
医療用物資の多くを輸入に頼っている日本にとって、看過できない事態である。
日本政府は、医療用物資の国内での増産体制を強化するなどの対策を懸命に進めているが、不足を解消するには至っていない。マスクや顔を覆うフェイスシールドなどを手作りして診療に当たっている医療従事者も少なくない。
WTOは、医療用物資の輸出の禁止や制限をする国に他国が追随する「ドミノ効果」と呼ばれる動きが一層強まるのではないかと懸念している。そうなれば、輸入に依存する国は医療用物資の入手がますます困難になり、新型コロナウイルスの感染拡大を抑える取り組みができなくなってしまう。
医療用物資を過剰に囲い込むような自国優先の姿勢に傾倒するのではなく、各国が協力して、物資の国際供給網を再構築すべきだ。この点、WTOは各国に、医療用物資の輸出の禁止や制限を実施する場合、それをWTOに通報するとともに、措置の内容についての情報提供にも努め、どの種類の物資の輸出が制限されるのかなどを明らかにするよう要請している。
現在、医療用物資の輸出の禁止や制限を実施する80カ国・地域のうち、その措置をWTOに通報したのは39カ国・地域にとどまる。これでは、どの物資が不足するのか見通しが立てられない。医療用物資の供給を巡る国際協力の大前提として、WTOの要請を守ることから始めるべきだ。