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【主張】新しい司法の構想 民事裁判の“国際競争力”強化へ
民事裁判を公正で利用しやすい制度にするための努力はこれまでも続けられ、第一審判決までの時間短縮や民事法律扶助の拡充など一定の成果を上げてきた。
さらに今後は、グローバル化の進展に合わせ、視点を世界に向けた新しい民事司法の構想が必要になっている。
政府は、国境を越えた商取引などによって民事上のトラブルが発生した場合、「他国ではなく、わが国の民事司法制度が利用されるよう、わが国の民事司法全般の国際競争力の強化を図る」とする報告書を先週まとめた。
国際社会の中で日本の司法の存在感を高めるため、政府は具体策の検討を急ぐ必要がある。
報告書が“国際競争力”強化に向けたテーマとして最初に挙げたのが民事裁判手続きのIT化である。
日本の場合、訴えの提起や書面の提出をオンラインですることができず、いずれも「紙」によって行われている。メールで送信しても裁判所で「紙」に印刷される。
しかし、欧米を中心に裁判手続きのIT化は既に進んでおり、アジアでも韓国やシンガポールなどで普及・定着している。世界銀行が毎年発表するビジネス規制に関わる調査項目の中に「裁判の自動化(IT化)」があるが、日本は厳しい評価となっている。
IT化の遅れによって、日本企業と取引がある外国企業は海外の裁判所に訴えることが多く、日本側は不慣れな手続きに翻弄される。報告書が「全面オンライン化」を実現すると明記したのは当然だ。
加えて、IT化以外にも課題がある。特許侵害など知的財産に関する裁判では、公判の中で企業秘密をどう守るかも重要なテーマである。
欧米では、当事者が提出する証拠に企業秘密が含まれる場合、それを見ることができるのは相手側の弁護士に限定し、相手企業には見せない制度がある。こうした制度の導入も検討しなければ、外国企業による日本の民事裁判利用もなかなか進まない。
民事司法の姿を変える挑戦である。報告書は今回の改革を「わが国の民事司法にとって新たな船出の契機」と位置付けた。世界標準の民事司法制度の構築を期待したい。