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コラム「北斗七星」
三陸沿岸には「地震があったら津浪の用心」との言葉を刻んだ石碑が点在する。1933年に発生した昭和三陸地震の津波被災地に建立されたが、時が過ぎて、その多くは忘れ去られた◆その石碑が命を守るきっかけとなった事例がある。宮城県名取市閖上にあった市立閖上保育所での出来事だ。2009年、同保育所へ佐竹悦子所長(当時)が赴任した。その頃「リアス海岸ではない閖上に津波は来ない」との伝承もあったという。ある日、佐竹所長は、園児と訪れた近くの公園で目にした「地震があったら津浪の用心」との石碑が気になった◆佐竹所長は「ここは過去に、3メートルの津波が来た。建物の高さが2メートルしかない、この保育所で、預かった命をいかに守るか」と園児一人一人の顔を思い浮かべながら避難方法を考えた。10年から「避難マニュアル」の改善に着手。毎月の避難訓練や実際に避難場所へ行くなど検証を重ね、その都度、マニュアルを改編、避難時の役割分担を何度も職員と確認した◆東日本大震災では10人の全職員が5台の車で園児54人全員を無事に避難。海からわずか260メートルの場所にあった保育所の避難行動は“閖上の奇跡”と称された◆佐竹所長はこう述懐する。「“奇跡”は訓練の積み重ねでしか起こらない」。平時から災害への備えを怠るまい。(川)