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知ってほしい摂食障害
国内患者は20万人以上
「ダイエットの延長」「わがまま病」
誤解根強く 孤立深める本人、家族
「摂食障害で苦しんでいる人がたくさんいる」――公明党の石田祝稔政務調査会長は、NHKの国会中継が入った3日の衆院予算委員会でこの問題を取り上げた。精神的な苦痛から食行動に問題が生じ、正常な食事を長期間行えない状態となる「摂食障害」は、若い女性を中心に苦しむ人が多い。誤解や偏見が根強く、正しい理解が進まないこの問題の現状と、支援のあり方を探った。
摂食障害の国内患者数は、厚生労働省の最新の統計では20万人超に上ると推計される。主に神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)の二つに分けられ、回復までは平均5年かかる。精神疾患の中で致死率が最も高いともいわれる。
拒食症は、食事を極端に取らず、健康を損なうほどの体重減少を生じている状態を指す。体力や筋力の低下、骨粗しょう症に加え、女性の場合、ほとんどが無月経になるなど、体にさまざまな支障を来す。
一方、過食症は、一度に大量の食べ物を胃に詰め込みたいとの衝動に襲われ、制御できない。食後、激しい自己嫌悪に陥り、嘔吐や下剤乱用といった代償行動を伴うことが多い。
今のところ摂食障害の治療に特効薬はなく、本人への面接を通じて考え方を変えていく認知行動療法や、家族を含めた心理療法が中心となる。14歳、16~17歳、21歳、29歳での発症が目立つ。この年齢は受験や就職活動など、人生の節目となる時期とほぼ重なる。
社会がつくった病
摂食障害を予算委員会で取り上げた石田政調会長=3日 衆院第1委員室
3日の衆院予算委で、石田氏の質問に対し政府が「ダイエットの延長であるとか、わがまま病、あるいは育て方が原因といった誤解が生じやすい」(橋本岳・厚労副大臣の答弁)と述べた通り、今でも個人や家族に問題があるとの見方が根強い。その結果、当事者と家族は外部に助けを求めるのをためらい、ますます孤立する構図になりがちだ。
摂食障害は、1970年代から患者が激増した。一般社団法人「日本摂食障害協会」理事長の鈴木眞理・政策研究大学院大学教授(医学博士)は、摂食障害について「人生で困ったり、つまずいたりした時になる“人生障害”」と指摘する。「社会が女性に学歴、社会参画、容姿、気遣い、結婚・出産など、数々のハードルを乗り越えることを求めるようになった。それに挫折した女性が自信を取り戻すための手段が『痩せる』という行為だった」
患者や家族らは、国による治療支援センターの全国展開を求めている。摂食障害は現状、専門の治療機関や相談窓口が乏しい。支援センターが整備されているのは宮城、千葉、静岡、福岡の4県にとどまる。県に1カ所拠点があれば、地域医療のレベルが向上し、教育機関との連携や、教員向けの研修、情報発信も期待できる。
「マゼンタリボン」で理解広がれ
マゼンタリボンを考案した愛媛県摂食障害支援機構の鈴木代表理事
愛媛の民間団体
摂食障害を広く知ってもらおうと活動する一般社団法人「愛媛県摂食障害支援機構」は2018年5月、活動のシンボルマークとして「マゼンタリボン」を考案した。ドイツの詩人ゲーテがマゼンタ(赤紫)を「見えざる色」と評したことにちなみ、リボンには摂食障害の奥にある当事者が訴えたい「見えざる本質」という意味を込めた。
同機構で代表理事を務める鈴木こころさんも、長年、拒食と過食に苦しんだ。04年、当事者同士の自助グループを立ち上げ、月1回のミーティングを続けてきた。参加者の「毎日、来られる場所がほしい」との声から16年に機構を設立。同じ病状に苦しむ女性たちが社会に一歩踏み出すための就労支援施設も運営する。
「医療や福祉関係者だけでなく、早期の関わりや回復に重要な役割のある学校や企業、行政、そして地域の人たちにも摂食障害のことを知ってもらいたい」と力を込める鈴木さん。県内の全教員に摂食障害に関するパンフレットを渡すため、各市町への訪問活動を続けている。
公明、支援体制の充実進める
公明党は昨年12月、日本摂食障害協会の鈴木理事長から「適切な治療を早く受けられるよう、全国に治療支援センターの整備を」との要望を受けたほか、石田氏は昨年11月、党愛媛県本部の政策要望懇談会で、鈴木さんの団体と意見交換。3日の衆院予算委での質疑は、これら現場の声を踏まえたものだ。引き続き、関係者との意見交換を重ね、患者や家族への支援を充実させていく考えだ。