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2026年3月17日

核心は「デジタル実装」、半導体・AIの“需要”育てよ

(論壇)日本の次の改革 
慶応義塾大学教授(元日銀審議委員) 白井さゆり

先の衆院選は中道改革連合には厳しい結果となった。選挙戦では減税や給付など短期的な家計支援が大きな争点となったが、日本が直面している本質的な課題はそれだけではない。人口減少と高齢化が急速に進む中で、社会の基盤をどのように再設計していくかという長期的な視点が求められている。

現在、日本では半導体産業の育成に向けて大規模な財政支援が行われている。経済安全保障や産業競争力の観点からも重要な政策である。しかし供給力強化だけでは、持続的な産業基盤は形成されない。半導体やAI(人工知能)を社会の中で活用する“需要”を同時に育てる視点が不可欠である。

その鍵となるのが、政府サービスの本格的なデジタル化、すなわち社会の「デジタル実装」だ。行政手続きのオンライン化にとどまらず、既存のデータを活用すれば、デジタル技術の社会的な需要は大きく広がる。

データを基盤とした社会が実現すれば、財政政策のあり方も変わる。現在の政策は全国一律の給付や広く薄い補助金に偏りがちだが、データを活用すれば必要な分野や地域に資源をより的確に配分できる。政策の効果も検証しやすくなり、限られた財政資源をより効率的に活用することにつながる。こうした環境が整えば、所得や状況に応じて支援を行う給付付き税額控除のような政策も、より現実的な選択肢となり得る。

さらに重要なのが医療と介護の分野だ。医療・介護・保険の情報を安全に共有し、デジタル化を進めることで、人手不足の緩和、業務の効率化、そしてより質の高い医療・介護サービスの提供が可能になる。医療や介護の現場では人材不足が深刻化しており、デジタル技術の活用は現場の負担軽減にもつながる。また、データを活用した予防医療や地域医療の連携を進めることで、社会保障制度の持続可能性を高めることも期待できる。

こうしたデジタル社会には、人材戦略も不可欠だ。AIやデータ分野の高度人材は世界的に争奪戦の状況にある。国内の人材育成強化はもちろん重要だが、それだけで需要を満たすことは難しい。外国人材の受け入れも含め、より戦略的な人材政策を進める必要がある。

また、視野をアジアに広げることも重要だ。アジアの新興国はレガシーシステム(既存の技術や仕組み)が少ないため、行政や金融、医療のデジタル化を急速に進めている。一方、日本は制度や社会インフラが整っている半面、レガシーシステムの壁がデジタル実装を遅らせている。しかし日本の制度と経験は、アジア諸国にとって貴重なモデルとなり得る。日本がデジタル実装を進めれば、日本の技術や制度をアジアと共有する新しい連携の可能性も広げるだろう。

人口減少社会の日本において重要なのは、技術を社会の中でどのように生かすかという視点である。産業政策としての半導体支援だけでなく、行政・医療・社会サービスのデジタル化を通じて技術の需要を育てることが、日本の持続的な成長につながる。半導体やAIを単なる産業政策にとどめず、社会の基盤として実装していくことこそが、日本の次の改革の核心である。

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