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コラム「北斗七星」
その白い電話ボックスの中には古い黒電話が置かれている。線は、つながっていないが3万を超える人が電話した。そこは東日本大震災で甚大な被害に遭った岩手県大槌町。海を望む丘に佇む「風の電話」を訪れた人は音がしない受話器を手に亡き人への想いを話す◆「風の電話」は、同町に住むガーデンデザイナー佐々木格さんが考えた。病死した、いとこの書家・武川博久さんへの気持ちを伝えよう、と自宅の庭で2010年末から作り始め、11年4月に完成。<あなたは誰と話しますか 風の電話は心でします 風を聞いたなら想い伝えて下さい 想いはきっと伝わるでしょう>との武川さんの絶筆の色紙を中に掲げた◆電話機の隣にはノートがある。「お兄ちゃん、ずっと見守ってね。大槌のお空から大槌の人を見守って」「あの時、お父さんに『いってきます』と言えていたら」……。亡き人を想う言葉があふれる◆阪神・淡路大震災を経験した人は「遠い東北で起きた地震を他人事に思えず来ました」と書いた。「心の中で大切な人と話せました。人とのつながりを大切に生きていきます」と誓いも記されていた◆佐々木さんは「風の電話」に「感性を育み想像力を育て希望と生きる力に」と願いを込めている。大切な誰かを失った人々の「心のインフラ」として。(川)