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リポート最前線 呼子朝市の再興、今こそ
“人情商売”未来まで
佐賀・唐津市
日本三大朝市の一つで、100年の歴史を持つ佐賀県唐津市呼子町の「呼子朝市」。江戸時代に漁師と農家で行われていた鮮魚と農作物の物々交換がその始まりとされる。午前7時30分から正午まで、呼子港にほど近い朝市通りの露店には今も、取れたての水産物や野菜などが並ぶ。名物のイカの一夜干しやアジのみりん干しは絶品だ。だが近年は、観光客の減少や後継者不足、高齢などを理由に店を畳む人が後を絶たない。呼子朝市の再興へ、新規の出店者(売り子)を確保しようと奮闘する関係者と行政の取り組みを紹介する。
「おいしいよ! お土産にどうぞ」。元気な売り子の声が響く呼子朝市。イカの一夜干しやアジのみりん干しなどが並ぶ
2017年から開催する同学校では、実際の屋台を使った“売り子体験”をはじめ、道路の使用申請や接客、衛生管理の基本ルールなどを教え、約1カ月の仮出店も支援する。現在、朝市組合で副組合長も務める原さんは、「お客さんが減った今では、500円の商品を売るのも大変。だからこそ買いに来てくれる一人を大切にする。そんな、人と人をつなぐ温かな心を持った売り子になってもらえれば」と期待を込める。
これまでに入校した14組のうち、9組が朝市組合員となり、呼子朝市に出店。産業・教育課の濱口和彦係長は、「良き伝統は残しつつ、時代の変化に応じた若者向けの店舗も呼び込みながら朝市をもっと活気づけたい」と意気込みを語る。
にぎわい生むマルシェも好評
昨年からは、より気軽に出店してもらおうと、週末に「呼子マルシェ(市場)」も開催。7~11月にかけて4回開き、参加した県内外の雑貨店や飲食店など56店舗のうち、3店舗が朝市への出店を決めた。
今年も6~11月に5回行い、60店舗が出店。この2年間で呼子マルシェの参加店舗が定着し、来客数は累計で約1万6000人を数えるなど、にぎわいの創出にもつながっている。
こうした背景には、朝市の活性化に取り組む呼子地域担当の岩本一彦・市集落支援員の存在が欠かせない。各地のマルシェに通い、その場で出店者をスカウトすることも。「どの店舗も快く商品の一部に呼子らしさを取り入れてくれている」と目を細める。実際、唐揚げ店では揚げイカ団子、雑貨店ではイカのキーホルダーなどが店頭に並ぶ。
新規出店者の育成をめざし、行政と朝市組合が協力して開催する「朝市学校」の様子
岩本支援員のラブコールで、初回から呼子マルシェに参加しているのが、デニム生地などを使った手作りアクセサリー店。長崎県佐世保市から出店する平方美聡代表は、「呼子は親切で温かい人ばかり。呼子の人間ではないけれど、大好きな朝市の復活に少しでも貢献できればうれしい」と笑みを浮かべた。
“学校”で新規出店を後押し
この二つの取り組みが奏功し、サバを挟んだサンドイッチやドライフルーツなど、“新商品”を扱う店舗も呼子朝市に進出する。
唐津焼を扱う「炎向窯」も、その一つ。唐津市内に窯を構える打越ひろみさん(60)は、昨年11月の呼子マルシェに参加した後、今年2月の朝市学校にも入校。仮出店を経て4月から空き店舗を借り、作家の夫が作った陶器を売る。「窯元直売でお得だからか、海外や県外の観光客を中心に売り上げが良く、リピーターも多い」と手応えを語る打越さん。今では朝市学校で講師も務める。
こうした打越さんのような出店者(組合員)が増えつつある一方、その総数は17年度82人、18年度81人、19年度83人とほぼ横ばい。約20年前から半数以下に減った現状について、朝市組合の小林昌克組合長(60)は、「買い物より、少量を食べ歩く観光が主流になった今、午前中のみ営業する朝市のスタイルでは、さらに経営が厳しくなっていく」と分析。「客層と需要の変化を捉え、新規出店しやすい環境を整えたい」と今後を見据える。
県内外からの出店が定着しつつある「呼子マルシェ」を視察する市議会公明党のメンバー
市議会公明党の白水敬一、中川幸次、宮本悦子の各議員は先ごろ、呼子マルシェを視察。唐津市内でオリーブオイルを製造・販売する打越遵博代表は、「市内でこんなに人通りが多いところはない。商品を広く知ってもらえるチャンス」と出店理由を語っていた。今回が2回目の参加という。
伝統ある呼子朝市の存続と発展は、唐津市の地域振興にも直結する。今こそ、あらゆる力を結集した底上げが求められている。