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2019年12月11日

若い世代のがん 寄り添う体制強化を

国立がん研などの調査から 
20代後半から患者急増 
進学、就職、結婚など 将来見据えた支援必要

1981年から日本人の死因の第1位を占めるがんについて、国立研究開発法人の国立がん研究センターと国立成育医療研究センターが、0~14歳の小児と15~39歳の思春期・若年成人を指す「AYA世代」のがん患者に関する報告書を公表した。報告書の内容を紹介するとともに、今後の支援体制のあり方について、国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長に聞いた。

両センターは、全国の小児がん拠点病院をけん引する「小児がん中央機関」として、2014年2月に国から指定を受けている。10月に公表された報告書は、全国のがん診療連携拠点病院や都道府県から推薦された病院など844施設の医療機関が行う「院内がん登録」のデータについて、両センターが初めて共同で集計・解析したもの。

この世代のがんは数が少ないことから、登録済みの16、17年の2年分を合算し、小児の4513人、AYA世代の5万7788人を分析した。

AYA世代のがん患者の年齢別の割合を見ると、25~29歳で14%と急増し、年齢が上がるにつれて増加。30~39歳が40歳未満のがん全体の約70%を占めた。

がん患者は、40歳以上も含めた全世代で見ると男性の割合が多い。しかし若い世代に限ると、15~19歳では男女に差はないものの、20歳以上になると女性が多くなり、20~39歳では女性が約8割を占めた。とりわけ、25歳以降の急増は、子宮頸がんと乳がんの増加によるものと考えられる。

このため女性については、がん検診の受診率向上が喫緊の課題となっている。日本の子宮頸がん、乳がん検診の受診率は40%台と極めて低く、米国の半分ほどにとどまる。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最低レベルだ。

現在、日本では「がん検診受診率50%達成」を目標に掲げ、20歳以上の女性には、2年に1度の子宮頸がん検診を推奨している。

また、AYA世代が罹患するがんの種類は多様で、治療や支援の両面で他の世代とは異なる体制整備が必要だ。治療においては、将来にあらゆる可能性を残す治療の提供や、後遺症の長期的サポートを行う体制づくりが遅れている。

厚生労働省研究班の調査では、AYA世代の治療中の悩みごととして、「今後の自分の将来」が最も多く、「仕事」や「経済的なこと」が上位を占める。就職や結婚など人生の大きな節目と治療が重なるだけに、個別に寄り添える支援体制が求められている。

小児がん 診療の集約進まず

一方、小児がんで見ると、最多は白血病で、脳腫瘍、リンパ腫が続いた。

症例数が少ない上に、希少な種類のがんが多く専門性が高いため、国は全国に15カ所の「小児がん拠点病院」を指定し、診療の集約化を進めている。

しかし、2年間で小児がんを1~3例診察した施設が146施設に上り、実績の少ない医療機関で希少がんが治療されている実態も浮き彫りになっている。

相談や情報提供を丁寧に

国立がん研究センターがん対策情報センター長 若尾文彦氏

AYA世代は、病気ではなくても将来のことで悩む時期だ。就学や就労、恋愛、結婚、出産など、独特のライフイベントがある中で治療に向き合わねばならない世代だが、支援体制の整備はまだ緒に就いたばかりだ。

昨年3月に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」で、AYA世代の患者に適切に対応する体制整備が明記された。医療側も病院内のネットワーク、あるいは病院間のネットワークを構築していくことが大切だ。

まずは、個別の悩みや不安をしっかりと受け止め、適切な情報を確実に届けていかなければならない。治療法や治療後の合併症、経済的支援などは中高年の医療提供体制と重なってサポートできるが、年齢に適した治療環境、恋愛などでも情報を提供できるかが課題だ。

例えば、就学については、高校だと9割弱の教育委員会が何らかの支援をしているが、その情報が伝わっていない場合がある。さらに、治療前に卵子や精子などを凍結保存することで、妊娠する可能性を残す妊孕性温存治療を選択できる場合もある。

また、末期がんで40歳以上だと介護保険が適用されたり、小児にも慢性特定疾病の助成があるが、終末期のAYA世代のうち18~39歳には、こうした公的な国の支援がないことも課題となっている。

今年3月には、がん研究センターの研究班でAYA世代をサポートするホームページを立ち上げた。暮らしに役立つ情報を届けるため、「心とからだ」「生活」「家族・恋人」に関するテーマで構成し、体験談も載せている。

あらゆる取り組みを通じ、AYA世代に寄り添える治療・相談体制の整備を進めるとともに、今回の報告書に限らず、さらにデータを分析し、支援体制の向上につなげていきたい。

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