ニュース
コラム「北斗七星」
「半額」や「30%引」のシールが輝いて見える。夜のスーパーの総菜売り場。見切り品を買う客が多くいた。3割引きのますずしにひかれたが、半額の魚フライにした◆物理学者・随筆家の寺田寅彦は「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」と書いた(『科学者とあたま』)。理由は、頭のいい人は見切るのが早いこと◆いわく「頭のいい人は見通しが利くだけに、あらゆる道筋の前途の難関が見渡される。(中略)そのためにややもすると前進する勇気を沮喪しやすい」「何か思い付いた仕事があった場合にでも(中略)大した重要なものになりそうもないという見込をつけて着手しないで終る場合が多い」◆一方「頭の悪い人は前途に霧がかかっているために却って楽観的」「脇目もふらずに進行して行く。そうしているうちに、初めには予期しなかったような重大な結果に打つかる機会も決して少なくはない」とした。やりもせずに見切るのではなく、試みることを勧めたのだ◆寅彦は明治11年(1878年)のきょう生まれた。茶わんの湯や満員電車など身近なものを題材に、科学を分かりやすく伝える随筆を書いた。値引きシールを見たら言うかもしれない。「君たち、自分の可能性にシールを貼ってはいけないよ。思い立ったら、とにかくやってみたまえ」(直)