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コラム「北斗七星」
米国作家リチャード・パワーズの小説『オーバーストーリー』は、見知らぬ男女が樹木の「声」に導かれ、北米大陸最古の原始林に呼び寄せられるといった物語だ◆大昔から、土を作り、水を循環させ、大気を形作り、生態系や生き物の生活を支えてきた樹木。その〈人間の狭い意識領域を超越した行動を取る異質な主体〉の不思議な力を描き出した雄編である◆イチョウ、エノキ、クロガネモチ――。広島の街を少し歩くと「被爆樹木」に出会う。原爆の惨禍を生き延びた木々だ。現在、広島市は爆心地から概ね2キロ以内にある159本を被爆樹木として登録し保存に取り組んでいる◆一方で、世界8527都市が加盟(1日現在)する平和首長会議は、広島、長崎両市の被爆樹木の種や苗木を国内外の加盟自治体に平和のシンボルとして配布している。被爆地から世界に旅立っていった被爆樹木が大きく育つことを願う◆樹木の声に耳を傾けよう。〈希望を持ったり、絶望したり、予想したり、油断したりしてはならない。決して降伏はせず、今までの生活でやってきたのと同じように、分岐し、増殖し、変身し、結合し、行動し、耐えること〉。木は、私たちに多くのことを教えてくれる。(中)









