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コラム「北斗七星」
「社会そのものから貧困をなくしたいという、幼時体験に根ざした悲願がこめられていた」(岩渕潤子著『億万長者の贈り物』、日本経済新聞社)◆物心ついたころ貧乏のどん底にあった一家。そして一労働者から身を起こし鉄鋼王となったアンドリュー・カーネギー。文化への深い理解者であり、かつ篤志家として精力を傾注した半生に気宇壮大な志が見て取れる◆時代は移り、企業が文化・芸術支援を通じて社会に貢献する世界的趨勢の中、1990年に日本で誕生した「企業メセナ協議会」。30年の節目を前に優れた活動が注目されている。例えば歴史的建造物の保存管理を地域全体で関わり、その交流を創出して文化の醸成に寄与するといった事例だ◆企業などに同会が実施した18年度メセナ活動実態調査によると、「メセナの取り組み目的」を5年前(13年)と比較。「社業との関連、企業としての価値創造のため」と答える割合が約3倍に迫る82.2%。また「芸術・文化による社会的課題解決のため」が、60.3%と初めて6割超に◆かつて平成不況やリーマン・ショックで沈滞ムードを招いた。しかし援助の形が多様化し社会課題と向き合おうという考え方も浸透。本来、宣伝効果など見返りを求めない文化支援である「メセナ」。その志は持ち続けてほしい。(照)